2022.5.9
第四十五回 戦争は究極のCO2排出
日本再生可能エネルギー総合研究所 北村
ニュースは、3年ぶりに新型コロナによる制限もないゴールデンウイークだと繰り返しています。多くの人出に何となく不安は残るものの、それでも手足が少し伸ばせる自由を感じている人も多いでしょう。
一方、ウクライナではロシアの侵略によって相変わらず、多くの罪の無い人たちが命の危険にさらされています。残念なことにどうやら長期化する気配です。今回のコラムは、戦争と脱炭素、温暖化防止の観点から書いてみたいと思います。
ロシアは、エネルギー、特に化石燃料の資源大国です。また、ロシアにとって最大の輸出品です。今回の戦争で厳しい経済制裁を受けているロシアなので、制裁の対象は稼ぎ頭の天然ガスや石油にも向けられています。欧州を中心にエネルギーの脱ロシア依存が叫ばれていますが、そう簡単には輸入先をシフトできず、結果として世界的なエネルギー費高騰に拍車がかかっています。
日本の電気代の上昇の要因に今回のウクライナ侵略があるのは間違いなく、この戦争は日本のエネルギー事情、ひいては脱炭素政策にもよくない影響を与えて続けています。
ここまでは、どこにでも書かれている常識です。
確かにそれも重要なことすが、戦争の直接の影響を脱炭素の観点から見ることも必要です。戦争とは、恐るべき大規模な破壊行為です。マリウポリの惨憺(さんたん)たる状況をテレビや写真で見るにつけ、ここで再び市民が元通りの生活ができるようになるのはいつなのか想像もできません。
大量の兵器を消費して、せっかく作り上げた建物や各種のインフラを壊しつくす。いずれにも大きなエネルギーが使われてきているはずです。そして、復興にはそれと同等かそれ以上のエネルギーが費やされることになります。
脱炭素のためには、なるべくエネルギーを使わない=省エネとエネルギー効率化が重要になります。また、新たに投じられるエネルギーを出来る限りCO2排出の少ないモノや方法に変えていく必要があります。それなのに、一方で、無駄な破壊のためにエネルギーを使い、やらなくてもよかったはずの“復興”に莫大なエネルギーを投じなければなりません。
戦争は、究極のCO2排出、反カーボンニュートラルなのです。
ロシアの侵略で荒廃したウクライナの復興には、6,000億ドル、日本円で77兆円もの資金が必要になると、先日、ウクライナの首相が見通しを示しています。もちろん、ウクライナのために協力は欠かせないと思います。一方で、脱炭素にも逆行するロシアの蛮行に対しても重ねて厳しい非難を続けることが必要です。
これまで示してきたように、今回の侵略行為は、今後の世界のエネルギーあり方の大きな転換点となっています。ですから、欧米など各国は、目の前で進むエネルギー高騰に対する短期、中期的な対応だけでなく、脱炭素政策の見直しを図っています。大きな変化への対応には必ず修正が必要だからです。
例えば、ドイツは短期中期的には「エネルギーの脱ロシア依存」を急激に進めています。過去のロシア政策の失敗を取り戻すのに必死といってもよいかもしれません。エネルギー費高騰の対策として、低所得者や企業への補助などを次々と決めています。一方で、「イースターパッケージ」として、再生エネ拡大の目標を大幅に前倒しました。
ところが日本はどうでしょうか。
まるでガソリンの補助の一本やりです。一律補助はバラマキであり市場メカニズムを壊すとの批判が強いにもかかわらず、さらに補助を拡大する方針です。参議院選挙対策に見えて仕方がありません。
また、輸入に頼る化石燃料からの脱却=再生エネ増強がさらに重要になったにもかかわらず、脱炭素政策の柱である再生エネ拡大の強化策は何も出てきません。ネックのひとつとなっている、系統拡充は案として示されたまま、2030年には東北や北海道で太陽光発電の4割が出力制御で無駄になるかもしれないとされているにもかかわらずです。
また、欧米や中国で爆発的に進んでいるEVへのシフトも日本は遅れっぱなしです。昨年の新車販売のわずか1%程度にしかなっていません。EVバッテリーの蓄電池利用は、出力制御となった再生エネ電力の安い受け皿になる可能性があることを忘れていませんか。
聞こえてくるのは、一部による原発再稼働ばかり。これさえも、地震大国でのリスクや将来に渡っての原発のあり方をきちんと議論する場を作る話さえ聞こえてきません。
思うのは、本当に日本は行き当たりばったりだということです。戦争という大きな変更要素が加わったのにそのリスクに適応できていません。政策の根本的な見直しや修正を誰もやろうとしないように見えてしまいます。
今、日本に必要なのは、状況の変化、リスクに向かい合う適応力、修正力だと考えます。
以上