2022.5.31

第四十六回 脱炭素で負け続ける日本

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 ロシアのウクライナ侵略が化石燃料の高騰にさらに拍車をかけたり、短期的にせよ、ドイツや他の諸国が石炭利用を増やしたりと脱炭素に一見逆行するように見える動きがあります。でも、それに幻惑されてはいけません。脱炭素の路線は確定し、再生エネ拡大のスピードは増すばかりなのです。
 経済の観点から言うと、脱炭素ビジネスは今後飛躍的に伸びるのは確実で、国の発展はそこにかかっています。脱炭素のツールは、短期的に見れば太陽光、風力発電などの既存の再生エネ発電が主流ですが、中長期的に見るとイノベーションを含む技術が必要になります。また、ここでも何度もお話ししているように、熱や交通分野での脱炭素化も必須です。
 そんな中で、実は日本の技術やビジネスが負け続けているという少し悲しい話を今回は取り上げます。

 最近、私が講演やセミナーなどで、カーボンニュートラルでの日本の課題を取り上げることが多くなっています。その時に例として挙げるのが、EVの普及です。
 ご存じのようにEVは、ガソリンを使わない点で脱炭素に適した存在です。もちろん、化石燃料を使って作った電気で走らせれば元も子もありませんが、そこを再生エネ電力に替えれば、立派な脱炭素ツールです。また、EVに載せたバッテリーをうまく使えば、電力需要のコントロールなどもできて、将来4割にも達するといわれる再生エネ発電施設の出力制御対策にもなります。
 ところが、その普及で日本がかなり遅れています。新車の9割以上が、BEVやPHEVというノルウェーは、ちょっと例外ですが、ヨーロッパの各国では2割を超えるのが当たり前になってきています。日本より遅れていた自動車大国、アウトバーンを時速200kmでガソリンをまき散らしながら走っていたドイツは、昨年7台に1台がEVで、今年は20%台です。日本の数字を示しましょう。1%です。あららと思うのは私だけではありません。
 先ほど、BEV、PHEVと書きましたが、それぞれバッテリーEV(純粋なEV)、プラグインハイブリッドEV(ガソリンでも走るが、外から充電ができる)のことです。現状ではPHEVはEVにカウントされますが、欧州では2026年までです。日本のHEV(トヨタのプリウスなどのハイブリッド)は、現状でダメです。日本はトヨタを大事にしたいためなのか、HEVにこだわりEV普及に及び腰に映るのです。それは、EVに欠かせない充電設備の拡大目標の見劣りにも表れています。人口当たりで見れば、お隣の韓国の10分の1でしかありません。

 続いて、水素を見てみましょう。つい先日の日経新聞にこんなタイトルの記事が載りました。『「グリーン水素」製造装置、欧州で量産 日本勢出遅れ』。再生エネ電力で水を電解して作るグリーン水素は、脱炭素の切り札となります。その電気分解装置について、日本が出遅れているという記事です。ノルウェーやドイツのメーカーが次々と大型の電解装置の量産体制を確立しているのに対し、日本のメーカーは、実用化の目途さえ立っていないというものです。もともと、日本にも技術はありましたが、ただ、需要が無いこともあって小型のものが主流でした。私はグリーン水素が専門の一つだったこともあり、国内のメーカーさんともお付き合いをしています。また、ドイツの実機レベルの施設も何カ所でも見ています。ドイツで感じたのは、コストはいつか合うようになるから、それまでに大型の実用レベルのもので運転し、ペイするようになったときに備えるという姿勢でした。その時が、ついにやってきたということなのでしょう。先行していたはずのEVでも水素でも負けるならば、日本に何が残るのだろうかと心配になります。

 デジタル化やDXで決定的な課題があることは、新型コロナ対応で露呈されました。もう少し広く考えれば、日本の企業としての構造転換が必要という結論になります。企業の形態(経営、技術開発など)が脱炭素に会う形で転換する必要があるのです。このことは、政府の「クリーンエネルギー戦略の中間整理」にもはっきりと書かれています。ところが、その実施に向けた施策が見えてきません。
 前に書いた、「ガソリン代の補助」はその悪い典型の一つです。脱ガソリンが必要なのに、ガソリンを使いやすくする政策を取っているのです。世界的なコンサルティング会社、マッキンゼーアンドカンパニーは、日本の構造転換の必要性を挙げると同時に、日本への投資が増えていない現状を指摘しています。構造転換がなされないから、円安にもかかわらず日本への投資が進まないのです。施策が変わらなければ、投資は無駄になるという論法です。その意味からすれば、変わるべきは日本の脱炭素政策なのでしょう。
 ウクライナ侵略という時代が変わるような出来事があったにもかかわらず、再生エネ拡大施策は特に何も追加されませんでした。11兆円とも16兆円ともいわれるコロナ対応の予備費の使途不明がある一方、5兆円足らずの系統補強策がいまだに「議論中」のままです。
 前回の最後に書いた文章をもう一度、あえて書いておきます。
 『今、日本に必要なのは、状況の変化、リスクに向かい合う適応力、修正力だと考えます。』

以上

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