2022.4.15

第四十四回 重要さを増す交通と熱の転換part2

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 前回のコラムで、熱と交通エネルギーの対応が重要だが、日本が大変遅れていると書きました。そのあと、Twitterで良いリポートを見つけました。ドイツの著名な研究機関、エコインスティテュート(Öko-Institut e.V)が4月7日に発表したものです。
 簡単に言うと、再生エネ電力を飛躍的に取り入れるための柔軟性、特に分散型の柔軟性についての予測をまとめたもので、そこでは熱と交通エネルギーが大きな役割を果たしているのです。
 少し専門的で難しいところもありますが、今後の脱炭素化、再生エネ化にとってはたいへん重要な示唆が含まれています。たぶん、このリポートを日本語で紹介するのはここが初めてで、このコラムでしか読めないと思います。

(出典:Öko-Institut e.V)

 この図が、リポートの肝です。(出典:Öko-Institut e.V)
 タイトルは、「2050年までの電力システムに関する技術的な柔軟性ポテンシャル」です。前提として、ドイツでは脱炭素を実現するため(つまり再生エネ電源を圧倒的に増やすため)には、技術的な柔軟性の飛躍的な拡大が必要だということが定説としてあります。そして、柔軟性ポテンシャルは非常に高く、2020年に比較し2050年には20倍にも増えることを示しています。
 例によって、ドイツ語なので大変申し訳ありませんが、説明していきます。
 左側に横書きで縦に並んでいるのが、柔軟性を持つことのできる主要な6つのツールです。黄緑のツールが上から、「一般家庭」、「工業、商業、サービス業」、「電気自動車」、「ヒートポンプ」の4つで、これらは、エネルギーの需要側の技術(の適用場所)です。
 続いて、ブルーの2つは、「太陽光発電+蓄電池システム」、「コジェネ」で、こちらはエネルギーを生み出す側です。
 これらは、比較的小さなエネルギーの生産者と消費者で構成されているので、分散型の柔軟性を保有することができます。つまり大規模な発電所や大型の蓄電システムではなく、地域内(=地産地消)のエネルギーシステムです。そのため、系統の負荷を最小限にし、発電など各種のコストも下げることが可能になるのです。一方、柔軟性の拡大によって、大幅に再生エネの導入が可能になる仕組みといってもよいでしょう。
図では、2020年時点の柔軟性を持つ電源の数字(TWh)と2050年の予測が並んでいます。

 2020年時点で、柔軟性のポテンシャルはおよそ10TWhです。ドイツの総電力消費量が558TWhなので、およそ2%しかありません。ところが、それが2050年には20倍の220TWhになると予測されています。現状の消費量ではおよそ4割ですが、今後電力消費量は減らす方向なので、その割合はさらに上昇すると考えられます。
 中でも、電動自動車とヒートポンプの貢献は群を抜いて高くなっています。つまり、交通と熱に関するツールが、柔軟性のポテンシャルが非常に高いのです。これは、前にも何度か書いた、「セクターカップリング」の考え方で見れば、よくわかることです。例えば、再生エネ電力が溢(あふ)れかえるほどできたとすると、それを電気としてそのまま使うだけではなく、余剰を交通(BEV=バッテリー電気自動車)や熱に変えて利用するというシステムです。
 前回のコラムで示した熱と交通の重要性にも直結するストーリーでもあります。

 ここまで、可能性やポテンシャルという言葉を何度も使ってきました。エコインスティテュートのリポートに沿っているのですが、そこには重要なカギが隠されています。
 例えば、BEV単独や太陽光発電+蓄電池システムで、確かに柔軟性の一部は達成できます。しかし、再生エネを大量に導入するためには、それだけでなく、横のつながり、融通などを含めた統合的なシステムが必要なのです。
 あるEVの蓄電池を、自動車を保有する家でも使うV to Hだけでは余剰や不足が出る可能性があります。太陽光発電+蓄電も同様です。例えば、エリア内の多くのEVなどをまとめて利用することで、初めて、系統の負荷を大きく下げることが可能になります。これがまさに重要な技術的なポイントです。
 コストにも大きな影響があります。エコインスティテュートの研究では、柔軟性の拡大で、ネットワークの集中や混雑を10%減らし、年間最大1,350億円のコスト削減が可能になるとしています。
 このような技術、柔軟性の供給と需要をまとめるメカニズムを2050年までに完成、適用させることが、カギになってくるのです。 
 紹介した6つのツール個々の技術はすでにそろっています。今後は統合に必要なソフトとメカニズムのコストもふくめた完成形が求められます。
 
 こういうドイツの研究機関のリポートを読んでいるといつも感じることがあります。非常に論理的で、何が目的で、そのためには何が必要で、いつまでにどんな形で完成させ、そうなると何が達成できるかをきちんと数字で示しているのです。
 日本は、いつも断片的です。
 エネルギー費が高騰した。はい、原発を動かしましょう。電力市場が乱高下する。新電力はダメです。単純で先を見ないふらふらした姿勢ですね。
 今回のエコインスティテュートの図で分かるように、まず野心的な想定と提案を打ち出したうえで、実際の数字(柔軟性のポテンシャル)を計算し当てはめています。彼らは、そういった数字を各種の仮定や過去のデータから解き、また、それを研究機関同士で競い合ってもいます。
 日本でも頑張っている研究機関もありますが、想定や提案が陳腐なものが多く、また、同じテーマの繰り返しばかりです。これは、政府の意向にばかり寄りすぎることが原因の一つだと思われます。

 話がだいぶんずれてしまいました。
 重要なのは、再生エネを最大限に導入するためには、熱や交通を含めた「柔軟性」を積極的に取り入れることです。今回のコラムで少しでもわかってもらえればと思います。

以上

一覧へ戻る