2022.3.10

第四十一回 ウクライナ侵攻が示したエネルギー地産地消の重要性

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 筆者がパソコンに向かうこの瞬間にも、ウクライナでは理不尽な侵略が続き、罪の無い市民に犠牲が出ています。心の底から突き上げる怒りの感情はともかく、世界のエネルギー事情にとっても激震が走っています。
 原油価格が140ドルに迫ったり、天然ガスがまた急上昇を始めたりしているのはご存じのとおりです。特に、欧州は、ともに半分近くをロシアに依存していて、自ら傷つく経済制裁を行わざるを得なくなっています。特に、2本目のロシアからの直通天然ガスパイプラインを完成させたばかりのドイツのうろたえぶりは半端ではありません。確かに世界の政治情勢の予見は簡単ではありません。しかし、あまりにロシアに依存しすぎたエネルギー政策は、失敗の烙印を免れないでしょう。
 ドイツだけでなく各国で、原発の取り扱いなど大慌ての議論が飛び交っていますが、その中で一致して求められているのは、再生エネの急拡大です。
 今回のコラムは、ウクライナ侵攻で大きく揺れる今後のエネルギーに焦点を当てます。

 ドイツからお話ししましょう。
 ドイツは、必要とする天然ガスの半分をロシアから調達しています。これが入ってこないとなると、、、パニックになるドイツの政治家の気持ちもわからないではありません。すでに連立与党の緑の党でさえ、今年の年末にストップする最後の原発の稼働延長について、議論は排除しないと言い出しています。
 長年準備をした脱原発のスケジュール変更は、技術的な観点からも簡単ではなく、来年の冬の対応には間に合わないとされています。また、欧州での天然ガスは、工業と暖房用に使われる割合が多く、実はドイツでも発電用は10数パーセントしかありません。
つまり、仮に原発利用を延長できても、カバーできるのは全体需要の一部だということです。国内にLNGの基地を建設する計画や自国産の質の悪い褐炭に頼る話も膨らんでいて、2021年に続く脱炭素の逆行さえあり得ます。
 ドイツの政策批判がメインでないのですが、ドイツでは2000年代に脱原発政策を政治的に強く推進したシュレーダー元首相の責任が問われ始めています。問題は、ロシアとの関係が非常に深かったことで、その後の政治家もプーチンを信じたり頼ったりすることに慎重でなかったことです。もともと、再生エネ推進の大きな目的の一つにエネルギー安全保障がありました。そこにはエネルギーのロシア依存からの脱却が掲げられていたのにも関わらず、2本のノルトストリーム、天然ガスパイプラインを敷設したのです。明らかに矛盾した政策でした。

 一方、2月末に「ドイツの新しい再生エネ政策(案)」が各メディアに載りました。
 こちらは、2035年までに電力部門をカーボンニュートラル化するという野心的なものです。
 電源別の内訳では、太陽光発電が2030年までに200GW、陸上風力発電が2030年までに100-110GW、洋上風力発電が2030年までに30GWとされていて、これらだけで現在の施設容量の3倍にもなります。
 もちろん、達成は簡単でありません。
 計画では、太陽光発電が毎年20GW、陸上風力発電が10GWの新設が必要とされていますが、例えば、昨年の風力発電の実績は2GWにも及ばず、達成への道のりは厳しいものがあります。

 少し考えればわかる通り、燃料を必要とする発電は、今回の究極のカントリーリスクに限らず、常に不安定さが付きまとうのです。ですから、燃料を必要としないVRE、風力や太陽光発電がさらに注目を浴び、シフトと加速が進むのは当然のことでしょう。
 すでに、化石燃料からの早期の脱出こそが今回の対策であるという考え方が、世界で急激に共通意識になっています。ドイツの財務大臣が語った、「他国に依存しない再生エネこそが自由のエネルギー」が象徴的です。

 今回の戦争前から欧州と同様に電力の高騰が続いていた日本でも、同様です。今後もエネルギー価格の上昇は確実です。同時に、リスクを常に内在する化石燃料などから早く離れたいと考えるのが自然で、燃料無しで地産地消が可能な再生エネへの指向はさらに拡大していきます。
 問題は、ドイツ同様に切り替えには時間がかかることです。その間は、ある意味で耐えるしかないかもしれません。燃料費上昇による国内でのさらなる価格転嫁(=料金値上げ)は、いずれ必至です。ガソリン代補助のように全体を支えることは、費用的に無理があるのは自明で、スペインやイギリスのような低所得家庭などへのエネルギー費補助を行うことになるでしょう。
 もともと、脱炭素ロードマップでも、2030年の目標(NDC)温暖化ガス46%削減のためには、地域における再生エネの最大限の拡大が必要とされています。それ自体も野心的で、一部には実現不可能という声さえ聞こえています。しかし、この情勢の中では、NDCをさらに加速させるつもりの必死の取り組みが必要だと考えます。
 コロナ、温暖化と戦争という、恐怖の多正面作戦に私たちは追い込まれています。それでも私たちは、地域に根差し、地道でも確実で前向きな努力を積み重ねることによって、持続可能な世界を残していかなければならないのです。

以上

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