2022.2.24

第四十回 地域新電力の新しい味方

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 地域新電力だけではないのですが、長期間にわたって続くJEPXの高騰の影響で小売電気事業者はいずれも厳しい経営環境にあります。各旧一般電気事業者も同様に大変で、資源エネルギー庁が言う「儲かっているものは誰もいない」状態です。
その中で、地域新電力に対する“応援”メッセージが増えてきているというお話が今回のコラムのテーマです。

もう少し詳しく言うと、地域新電力の役割を再度定義しなおして、脱炭素の実現と地域活性化に結び付けようとする動きのことです。
例えば、お役所、特に省庁の積極的な「地域新電力の活用」です。環境省はもともと「地域循環共生圏」という、環境省版のSDGsを推奨していて、地域でのその実現の中心的なプレーヤーの一つとして、自治体新電力などの地域新電力に期待を寄せてきていました。

(地域事業の好循環の主体としての地域新電力 出典:環境省、日本総研)
(地域事業の好循環の主体としての地域新電力 出典:環境省、日本総研)

ところがここにきて、新しい味方が登場してきました。
それは、経済産業省、特に地方の経済産業局が活発に動き始めているのです。
コンセプトは、地域新電力を、エネルギーをきっかけとした地域経済の推進役の中心に据えようという考え方です。

(「GET-UP Tohoku」と地域経済循環 出典:東北経産局)
(「GET-UP Tohoku」と地域経済循環 出典:東北経産局)

その先鞭(せんべん)となっているのが、東北経産局です。「GET-UP Tohoku」というプロジェクトを立ち上げて、その実現のために先日は二日間にわたるセミナーを決行しました。筆者も初日の冒頭でお話しをしています。参加者が200名近くになる盛況ぶりだったといいます。
再生可能エネルギーのポテンシャルを見ると、東北地方は大変高く、将来は多くの余剰が期待できます。もちろん、脱炭素の実現にも大きく寄与しますし、また、余った分を都市などに売ることで経済的な利益も見込めるのです。

中部エリアを管轄する、中部経済産業局でも、「中部ぐるりんエネルギープラットフォーム」という名の、同様の取り組みが進んでいることがわかりました。

(中部ぐるりんエネルギープラットフォーム 出典:中部経産局)
(中部ぐるりんエネルギープラットフォーム 出典:中部経産局)

中部経産局は、この仕組みを「中部地域課題解決型エネルギー地産地消プラットフォーム」と名付けています。地域新電力を単なる電気の小売事業者としてだけあつかうのではありません。脱炭素を含む地域の様々な課題解決の主体にしたり、地域経済の推進役としての役割を期待したりしているのです。
これは、東北経産局の考え方と一致しています。脱炭素は当面地域主導で進めるしかないことを誰もが知っています。地域分散型エネルギーを推進するために、地域新電力を地域の経済産業局が全面支援する姿勢を打ち出したことになります。

地域新電力は、小売電気事業に関しては、確かに生き残りに必死で、苦しんでいるところが多いのは事実でしょう。しかし、その新しい役割を地域の中で見出し、PPAなどの発電事業などにも積極的に関与していくことで、新しい展開の可能性が出てきているのです。
脱炭素の実現は日本としての国際的な公約ですし、地球を持続可能にするために必ず実行しなければならない課題です。このため、政府や官庁などの地域新電力に対する支援体制が、今後強まる可能性は高いと考えられます。
ただし、これまでのように小売電気事業だけを行う新電力は、正直って求められていないでしょう。地域の課題を解決し、さらに地域経済に寄与する新しい地域新電力に脱皮する必要があります。

ここまできて、ふと気づきました。
この地域新電力の新しい役割を俯瞰(ふかん)していくと、ドイツのシュタットヴェルケの役割との共通事項がどんどん増えてくることに、です。
ドイツのシュタットヴェルケは、ガスや電気、熱のエネルギーから水道や図書館などの地域サービスまでを包括した自治体主導(多くが自治体のメジャー出資)の事業体です。ほとんどが地域ごとに存在し、地域密着性が100%近いものです。
日本で電力小売りの完全自由化がスタートし、地域の新電力が次々と誕生した時には、ドイツのシュタットヴェルケを目指そうという声もよく聞かれました。しかし、その基盤や規模だけでなく、役割においても大きな差があることがわかってくると、その声は小さくなり、日本での実現は不可能に見えたものでした
しかし、今、中央官庁も地域新電力に新しい期待を始めています。日本の地域新電力が、“新しい役割”を実現していく過程で、ふたたび“日本版シュタットヴェルケ”をゴールとする動きが始まってもおかしくないのかもしれません。

以上

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