2022.3.23

第四十二回 エネルギー高騰の嵐の中で

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 エネルギー高騰はウクライナ危機との合わせ技で、電気などのエネルギー費は大きな影響を受けています。日本ではそれが円安で増幅されていることに気づく必要があります。5年とちょっと前には1ドル100円程度でしたが、今は120円です。円の価値が2割近く減ったのです。つまり、今回の天然ガスなどの高騰が無くても、輸入に頼る部分のエネルギー費は大幅な値上げになっているのです。

 さて、今回のお話はかなりぞっとする電気料金などの値上がりの話です。
 一般家庭の電気料金には、燃料調整費という仕組みがあります。申請による値上げや料金プランの変更をしなくても、天然ガスなどの燃料コストの変化を自動的に料金に反映させる仕組みです。もちろん、原料が値下がりした時にも対応しています。今回のダブル、トリプルパンチでは、すでに燃料調整費による料金の値上がりが続いています。そして、ウクライナ侵攻の影響はこれからやってきます。

 燃料費が上がると小売電気事業者にとって調達価格が上昇するので、まず利益圧縮、次に赤字に耐えることになります。しかし、自己努力には限界があります。例えば、規模の小さい地域新電力の多くは、昨年10月からのJEPX高騰を受け、高圧供給を中心に料金の値上げや顧客との契約打ち切りなどに走らざるを得ませんでした。
 これは、規模の大きい旧一電(東京電力などの大手小売り)でも最終的には同じです。確かに耐える時間は長くなるかもしれませんが、赤字を垂れ流しての我慢はいつまでも続きません。原料費が上がった分、そのまま価格に転嫁できれば良いのですが、簡単ではありません。参議院選挙を控えた政府は値上げにナーバスで、仮に値上げ申請があっても受けないでしょう。
 また、燃料調整費には、“消費者保護のため”に上限が設定されているため、自動的な値上げには制限があります。すでに、関西電力、中国電力、北陸電力は上限に達していて、赤字が膨らみ始めています。そのため、渇水準備引当金というリザーブの資金を取り崩すことを決めました。八方ふさがりで、ついにタコが自分の足を食べ始めました。

 ところが、個別の現場では、驚くような電気料金の値上げがすでに進行しています。
 電気の料金は、一般家庭などの低圧に関してはWEBなどで見てわかる料金表があり、定価販売がなされています。燃料調整費はそこに変動的に加わる料金で、この1年ほどで全体の料金はおよそ2割も自動で上がっています。一方、大口の企業や自治体さんなどは、いわゆる相対で料金を決めていることが多く、大量に電気を使う特別高圧契約の工場などの中には、1kWhあたり数円という超安価で支払っているところさえ珍しくありません。
 今、契約更新などで、そういうところが驚愕の値上げに直面しているのです。

 今回のエネルギー高騰は、燃料の値段が上がっているので発電単価そのものが高くなっています。つまり、基本的に安い電気はどこにも存在しないのです。ですから、いくらこれまで安く契約していたとしても、契約を更新する際には、ほぼ確実に値上げになります。
 ちょうど年度末になるこの時期にあちらこちらで新しい契約をどうするかの交渉が行われています。特にこれまで格安の電力提供の源泉となっていた火力発電所の燃料に高騰の火が付いたのです。企業からの悲鳴が各地で聞かれています。

 先日のニュースでは、北陸電力管内の企業が新電力などから大幅な値上げや契約打ち切りを打診され、北陸電力に戻りたいと問い合わせが殺到しているというものでした。北陸電力も急に供給力が増やせずに困っていると記事にありました。
 また、ある大きな工場は、旧一般電気事業者系小売りから「契約更新できない。続けたければ、最終保障供給を使ってくれ」といわれたそうです。最終保障供給とは、どこの小売りとも契約が成立しないときの停電を避ける駆け込み寺のような仕組みで、高圧契約では通常の料金の2割高になります。高圧は旧一般電気事業者でさえ受けたくないというのが現実です。実際、東北電力は昨年末から、新規の高圧契約を行っていません。

 自治体も同じです。
 電力の完全小売り自由化の後、一時、いわゆる新電力への切り替えが進み、これまでより安い料金を享受してきました。ところが、このところの切り替え(多くが入札)で、どの小売り業者も応募してこない状態が続いています。ある大都市の入札では、かろうじて新電力1社のみが応札して契約に至りましたが、これまでの料金から3割増しになりました。
 まだ成立するのはいい方で、最終保障供給に頼ることになれば、電気代に用意してきた予算が爆発します。

 つらつらと、現状を書きました。ウクライナ侵攻は収まってもロシアのエネルギーに頼らない仕組みを世界は模索するでしょう。脱炭素の実現は必須で、再エネ拡大と化石燃料利用縮小のバランスは試行錯誤を繰り返しながら、そこここにいわゆるインバランスを生みます。中長期には、再生エネの莫大な拡大が解決するでしょうが、それまでにまだ時間がかかります。
 もう一度思い起こしてください。
 電力自由化で、需要側は「料金の値下げ」を夢見て要求し、供給側は競いながら対応しました。しかし、地域新電力を含む新電力が安い電力を提供する時代は終わりました。これからは、いかに料金の上昇を抑えるか、また、料金をどう安定的に供給できるかに移ります。需要家の望みも変わってくるはずです。
 その答えは、地域の中での再生エネの拡大とその提供しかありません。そして、それは脱炭素に結び付きます。
 これまで、料金を安くすることに注力していたならば、その力を再生エネに向けてください。それこそが地域が発展し、地域新電力が生き残る道です。

以上

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