2022.2.14

第三十九回 脱炭素化、踊り場のドイツ part2

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 前回に引き続きドイツのお話です。
 ドイツが目指す「あふれるほどの再生エネ(電力)」の補足とエネルギー費の高騰について書いておきたいからです。
 前のコラムでは、ドイツの2021年の電源構成で再生エネの割合が大きく減ったこと、その代わりに石炭火力発電を動かして停電を逃れ、結果としてCO2の排出が急増したことを書きました。そして、今後の対応策は、原発回帰ではなく、再生エネの更なる拡大と考えていることにも触れました。

 再生エネ発電の増強については、今後の具体的な目標の数字があります。
 ドイツのBEE(Bundesverband Erneuerbare Energie e.V)によると、ドイツの再生エネ発電の容量の目標値は、2030年でおよそ330GW、2050年には700GWを超えるとされています。2020年現在で130GW程度なので、2030年に2.5倍、2050年では実に5.5倍を目指しているのです。
 現状のドイツの電力需要は、通常80GW程度で賄えるとされています。その10倍近くもの再生エネの発電容量を持つのは、天気に左右されるとはいえ、いくら何でも余り過ぎるのではと思う人が多いでしょう。再生エネの割合がドイツの半分以下しかない日本で、太陽光発電の出力抑制が頻発していることを考えても疑問が膨らみます。
 その対応は柔軟性です。柔軟性は再生エネ拡大の基本で、電力融通、DR(デマンドリスポンス)やVPP、広くエネルギー貯蔵も含まれます。余剰電力を熱や交通部門で使う、セクターカップリングという考え方もその一つとなります。多くがすでに実用化されている技術なので、それらを拡大させていくことであふれる再生エネを有効に使えるとドイツは考えているのです。

 また、交通部門の電化、つまりEV増加による電力需要の増加も見込んでいます。EVは貯蔵や融通にも使えて、一石二鳥です。ドイツは昨年BEV(バッテリーEV)の新車販売の割合が14%で、前の年の倍の比率になりました。PHEVも含めると全体の3分の1を超えています。ついこの間まで、日本と変わらないレベルだったのに、です。日本は1%に満たず大きく遅れています。
 ご存じのように、EVは使う電気が再生エネでないと、脱炭素に貢献しません。ドイツで急激に増えるEV用の電気は、あふれる再生エネでカバーするのです。
 また、ドイツはこのところ急激に水素の開発利用に力を入れています。もともと、水素用のパイプラインを一部の地域で持っていたこともあって、利用については長く研究を行ってきている実績もあります。例えば、マインツのシュタットヴェルケでは、風力発電の余剰電力を使って水素を製造し、実際に家庭のガスに混ぜて供給する実証を長く行っています。筆者は、マインツを始め、FCバスなどドイツ各地での水素の取り組みを実際に見てきました。ドイツの水素利用の基本的方向はエネルギー長期かつ大量貯蔵ですが、やっと実現、実用が迫ってきたかと感慨深いものがあります。

 今、ドイツを悩ませている大きなエネルギー問題は、ガス、電気などの高騰です。
 他の欧州諸国などと同様に、天然ガスの高騰が起因となって驚くほどの値上がりが続いています。ガスは直接影響を受け、家庭のガス代は2021年年間で28%の上昇です。電気代は、およそ6%とまだ低いのですが、電力の卸売市場が数倍レベルで定着しているので、更なる値上がりは必須でしょう。
 日本の報道で、電気代が6割以上上昇と強調されているものがあります。一部の家庭では事実ですが、平均では10%程度(前述した6%とは、統計の元が違う)なので、だまされないでください(笑)。
 ドイツを含む欧州の研究機関は、2022年の電力市場の価格は、ウクライナ情勢などもあって、さらに上昇すると予測しています。そして、来年以降は下がっても昨年と同水準と見ていて、エネルギーの高騰は長期化するかもしれません。
 これらの現況と脱炭素政策を合わせて、ヨーロッパでも原発回帰が見られます。EUタクソノミーでは原発が「グリーン」に分類される方向で、フランスのマクロン大統領は早くも原発の新規建設の数まで出しています。

 前のコラムから書いてきているように、ドイツはそれでも脱原発を貫きます。
 方針は、あくまでも、あふれるような再生エネの拡大です。現在進行形のエネルギーの高騰は、化石燃料の価格の激しいボラティリティ(変動)のためであり、限界費用ゼロの再生エネの代替しか解決できないと考えているからです。それこそが脱炭素への確実な道でもあります。また、一時的な原発回帰は、最終的にコストが合わないという冷静な計算がその背景にあるようです。
繰り返しますが、エネルギーは国家の基本です。短期と長中期共にきちんとしたデータを基にした議論を行い、国としての方向性を自ら決めていかなければなりません。

以上

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