2022.1.28
第三十八回 脱炭素化、踊り場のドイツ
日本再生可能エネルギー総合研究所 北村
ちょうど半年ほど前、久しぶりにドイツのことを書きました。
筆者の人生の中で、2年ほどではありますが、ドイツに住んだことは現在の仕事とも大変密接に関連し、重要な経験となっています。
前回は、ドイツがなぜ再生エネ先進国で居続けられるかなど、ドイツの地域、地元の視点からお話をしました。さて、今回は、少し大上段に構えた話題です。ドイツのカーボンニュートラルへの歩みが、昨年やや停滞したという事実からお伝えします。
新年すぐに発表されるドイツの主要研究所のリポートで明らかになったことです。
フラウンホーファー研究所ISEの「ドイツの発電実績2021年」のまとめでは、この20年以上ほぼ毎年拡大を続けていた再生エネ電力の割合が、初めて大きく減りました。2021年は再生エネ電力の占める割合が45.7%で、前の年2020年の50.0%から大きく後退したというのです。
2020年に新型コロナの影響で大幅に減った電力需要が、昨年は回復してきていました。ところが、再生エネによる発電量は昨年逆に下がったのです。需要が増えたのに発電量が減ったため、大きなシェア低下につながりました。
特に、風力発電の不振が目立っています。数字では、マイナス16TWh以上、前年比で12%以上減らしました。理由は、欧州の風況が悪かったことで、今もあまりよくないようです。
問題は、代わりの電源です。
もちろん、停電は絶対に避けなければならないので、政府はせっせと石炭火力発電を復帰させました。褐炭と良質な石炭による発電で合わせて28TWhが増産され、風力発電のマイナス分と景気回復などでの需要増をカバーしました。
これが、脱炭素にとってネガティブな結果を招くのは当然です。
年初に発表されたドイツのもう一つの研究機関のデータを使います。ベルリンにあるエネルギーシフトに関する著名なアゴラ・エナギーヴェンデのものです。
それによると、細かい数字になりますが、ドイツの2021年の年間のCO2排出量は7億7,200万トンで、2020年に比べて3,300万トン、4.5%も上昇してしまいました。経済活動の戻りと例年より厳しい冬の寒さで暖房需要が増えたためだとされています。
2030年のCO2削減目標達成にも暗雲が立ち込めています。今年以後、毎年3,700万トンもの大量削減が必要ですが、見込まれる経済活動の活発化で、今年もCO2上昇が心配されると危機感を示しています。
ドイツのエネルギーに関する内外のシビアな情勢は、これ以外にもあります。ウクライナ情勢によるロシアとの天然ガスパイプラインが止まる可能性やEUタクソノミーで原発が“グリーン”に分類されようとしていること、もちろん、天然ガス市場の高騰による家庭などの電気、ガス料金の値上がりのことも大変です。このあたりのことは、次回のコラムでお話しします。
さて、風力発電の不振やその他のエネルギーの課題をドイツはどうやって解決しようとしているのでしょうか。日本の一部の有識者やマスコミは、すぐに再生エネがダメだとか、原発を動かせという “安易な” 意見を発する向きがあります。この何年かのこの人たちの再生エネを巡る攻撃は、多くが、あらさがしと過去の自分たちの言動を忘れたかのようなものでした。
その点、ドイツのエネルギー政策と脱炭素の基本は揺るいでいないようです。最大の課題解決策は、「あふれるほどの再生エネ」を創り出すことだといいます。ところが、残念ながら、短期的に見るとその方針を貫くことができるかどうか正念場を迎えているようにも見えます。
風力発電では、発電量の不振だけでなく、設備の追加設置も停滞しています。昨年の風力発電施設の年間導入実績は、わずか1.7GWで、今後の主役となる洋上風力は、導入ゼロだったのです。政府の目標では、2030年時点での風力発電施設の目標には、まだ26GWも足りません。昨年1.7GW、おととし1.9GWのペースでは達成は無理です。このように、脱炭素の道程は、基本がしっかりしているように見えるドイツでさえ、今踊り場で苦悩し、今後も厳しい紆余曲折が予想されているのです。
今年の末にはすべての原発を止める方針を変えていないドイツは、1970年代からの長い国民的な論争の末に脱原発を選択しました。筆者は、例えば、日本で原発を今後どうするかという議論を行うことには積極的に賛成します。その中では、今のSNSや一部マスコミや識者のような安直な意見のやり取りではなく、必ずメリットデメリットを俎上にあげた討論が行われなくてはなりません。
問題は、カーボンプライシングやタクソノミー(グリーン分類)を自ら行わず、ひとまかせにばかりする日本政府の姿勢だと考えます。原発問題はその一つです。地球温暖化という人類の危機に対して、苦しくても汗をかいて前向きな提案を行う態度こそ、今必要とされています。
以上