2021.9.2

第二十九回 デジタル化と再生エネの拡大

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 ご存じのように、2030年に向けてのいわゆるエネルギーミックス(電源)の目標がほぼ決まりました。国が決める第6次エネルギー基本計画の案で示されています。再生エネ電力が、やっと主力電源としての数字っぽく、36%~38%となった一方で、原発の割合が20%~22%と現状のまま残しました。
 巷(ちまた)では、やれ原発の数字達成は無理だとか、再生エネ電力をこんなに増やすのは狭い国土の日本では非現実的だとか、批判の声が大きいように思います。
 その論争に巻き込まれるつもりはありません。数字より、再生エネ電力をより高い目標値に持っていくことが重要だと考えるからです。その時、日本に最も足らないのは“再生エネ適地”ではなく、デジタル化だと考え、今回のコラムのテーマとしました。

 この1年を振り返ってみても、デジタル化はかなり注目されてきました。
 菅政権の目玉政策として、デジタル庁ができた(9月1日)ばかりです。デジタル化をよくDXと略して書きますが、これはDigital Transformationのことで、あらゆる分野でのデジタル技術による変革を意味します。
 日本がこのDXで遅れているということにそろそろ気づいた人も多いかもしれません。新型コロナ関連では、保健所への患者数の連絡がFAXで行われていたり、厚労省肝いりのウイルス接触確認アプリ(COCOA)が半年も機能していなかったり、さらに東京都の若者へのワクチン接種がアナログ開催で長蛇の列を呼んだりと、遅れている例は枚挙にいとまがありません。

 IMDという調査会社がまとめた、世界の「デジタル競争力ランキング」(2020年版)では、日本は2019年の23位からランクを4つ落として27位になりました。国別のベスト10には北欧などの小国が多いのですが、アジアからもシンガポール、香港、韓国がランクインしています。
 この調査のタイトルに競争力とあるように、デジタル化は国や企業の実力を表す重要な指標になっています。FAXでの連絡を思い浮かべて気づくのは、デジタル化されないと人力が主体的に関わります。現代社会では、データは瞬時に遠く離れたところへ送られるのが当たり前で、そこに人の手が絡めば絡むほど、スピードがそがれるだけでなくコストがかかるのです。デジタル化できていないこと=無駄な費用がかかることで、結局、非効率で競争力を失い、企業の死活問題になります。政府や自治体に当てはめれば、政策遂行の遅れや税金の無駄遣いにつながります。

 前置き部分の説明が長くなりました。
 では、このDXと再生エネにどんな関連性があるのでしょうか。再生エネ拡大の初期は、乱暴に言えば、ただ多くの施設を作っていればそれで電力は増えていきます。ところが、発電設備がどんどん増えていくと、いくつもの問題が出てきます。例えば、太陽光発電施設が大幅に増えた地域で、晴れた日などに必要以上の電気ができてしまうことがあります。九州地方では、対応のために発電を抑制する「出力制御」という事態が最近頻発しています。もったいないことですが。
 解決のためには、発電を抑制するだけでなく、電気を貯めたり、EVの燃料として使ったり、熱などに変換したり、需要側を調整したりなどいくつもの方法があります。交通や熱に利用することを、「セクターカップリング」と呼び、需要調整をDR(デマンドリスポンス)と言います。また、個別の発電所を全体で制御するVPP(バーチャル発電所)という方法も有名です。
 日本では、蓄電池しか思い浮かべない人がいて、すぐに蓄電池は高いから無理となって、思考がそこで止まってしまうこともよくあります。
 再生エネ電力の主力化、大幅な拡大期には、発電自体を増やすことも重要ですが、これらの様々なコントロールが必須です。

 このコントロールは、まとめて柔軟性などと呼ばれます。そして、この操作はいちいち人の手でやっていては、非効率でそれこそコストが合いません。前述したコロナ連絡のFAXを考えればすぐにわかるでしょう。
 柔軟性を達成するには、それを低コストで実現するための技術、デジタル化が欠かせないのです。つまり、再生エネ電力の拡大、例えば2030年の目標36~38%の達成はDXなしでは不可能です。

 いろいろ問題はありましたが、なんとかデジタル庁は立ち上がりました。もちろん、役所がひとつできたからといって数ある課題がすぐに解決するわけではありません。国全体のデジタル化に向けてのシンボルが誕生しただけです。
 これから、遅れている政府機能のデジタル化だけでなく、民間企業も後に続く必要があります。これは、大きな企業だけのことではありません。地方の小さな会社も含めてすべてが対象です。どちらかというとベンチャーのような新興の会社の方がDXに対応している率が高いと感じます。GAFA(グーグルアップルなど巨大IT企業)のように、個人情報を手玉に取るような間違ったことは望みませんが、基盤としてのDXはマストです。
 デジタル化は、必ずしも場所を選びません。ベースを作ることで、再生エネの拡大と脱炭素化、地域の活性化と良いドミノ倒しを起こしたいと考えています。

以上

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