2021.6.24

第二十四回 地域脱炭素ロードマップとは何か

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 前回は、5月下旬に成立した改正温対法の意味をお話ししました。
 これは、地域主導の脱炭素をキイワードに自治体や企業への取り組みの指針を示したもので、カーボンニュートラルへの具体的な目標と計画を作成すること、そして排出量の公開を進めることが柱となっています。
 法律のベースには、脱炭素への取り組みに拍車をかける、別の言い方をすると「尻をたたく」という考え方があり、自治体や企業に競争させることでもあります。まず2030年までに46%の二酸化炭素の削減を達成するためには、今のままのペースではとても無理だという危機感の表れでもあるでしょう。

 この思想をさらに具体化したものが、地域脱炭素ロードマップです。
 今、脱炭素を指揮するのは、「国・地方脱炭素実現会議」という組織で、省庁がこぞって参加しています。すでに3回ほど会合が行われていますが、その中心となる脱炭素実行計画が、地域脱炭素ロードマップなのです。改正温対法を動かす、より具体的な内容が含まれています。
 はっきり示されているのは、公共施設への太陽光発電設備の設置です。2030年に自治体の保有する施設や土地等の50%、2040年にはすべての施設などに置くことを目指しているのです。進んでいる自治体などでは太陽光パネルの設置がかなり進んでいますが、数字を出して義務化するというのは別格の扱いです。自治体はこれに縛られることになり、すぐにでも対応を検討する必要が出てきました。

 ところが、設置費用の点で壁にぶつかることが見えています。ただでさえ地域の疲弊が叫ばれ、さらに新型コロナに予算を奪われることで余裕のある自治体はほぼありません。それに対しての答えもロードマップにはあります。設置の進めるための創意工夫の第一番目に、PPAの利用が挙げられています。PPAについては、このコラムでも何度か書いています。Power Purchase Agreementの略ですが、第三者に設置してもらい、そことPPA(電力売買契約)を結ぶことで、再生エネ電力を使うというシステムです。
 つまり、第三者=民間事業者などに施設は作ってもらうことで、初期の費用負担をゼロにできるというものです。すでにブームが始まっていますが、今後はこのPPA方式が飛躍的に伸びることになります。重要なことが、ロードマップの冒頭部分に書かれています。「地域において、行政・金融機関・中核企業等が主体的に参画した体制を構築し、脱炭素と地域課題を同時解決する事業や政策を実行していく。」です。つまり、PPAも含めて地域の再生エネの拡大は、地域が主導して進めることなのです。お分かりだと思いますが、再生エネ拡大に関する「地域の中核企業」の一つとして、誰もが地域新電力の名前を挙げることになるでしょう。

 もう一つ、ロードマップで示された新しい仕組みをお話しておきましょう。
 それは、先行して脱炭素を実現する地域をつくることで、「脱炭素先行100地域」などと呼ばれています。具体的な展開は、「少なくとも100か所の脱炭素先行地域で、2025年度までに脱炭素実現の道筋をつけ、2030年度までに脱炭素を達成。」と説明されています。一種のモデル地域を作って脱炭素を実現させ、いわゆる「脱炭素ドミノ」で全国に広げるという戦略です。
 ここでいう脱炭素とは、自治体施設だけのCO2フリーではありません。「民生部門(家庭・業務ビル等)の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロ」というかなりハードルの高いものです。さらに、「地域特性に応じて運輸部門や熱利用等も含めてできるだけCO2削減」するとあり、熱、交通でも脱炭素を進めなければなりません。

 一方、先行100地域は、必ずしも自治体の区分を前提にしていません。「農山漁村、離島、都市部の街区など多様な脱炭素の姿を示す」ことを目的にしているので、自治体の一部や複数自治体の連携もあり得ます。
 先行100地域に選ばれると、大きなメリットが想定されます。例えば、政府は、地球温暖化対策に積極的に取り組む自治体を支援するための『新たな交付金』を創るようです。この支援は、個別の事業ではなく、地域の再生エネ全体の取り組みに充てられる使い勝手の良いものが想定されています。その交付対象は、「先行100地域」に限定することが検討されています。

 このコラムの初めに、自治体の選別という言葉をあえて書きました。
 今回のロードマップや先に示した改正温対法でも、脱炭素は地域活性化に結び付くということが何度も示されています。つまり、脱炭素は単なる温暖化防止のためのツールでなく、地域を元気にする手段でもあると国は認めているのです。脱炭素の取り組み内容で自治体が選別されるのであれば、その結果として、活性化できる地域とできない地域が分かれることになるのは自明の理です。
 前回、今回書いた、「改正温対法」と「地域脱炭素ロードマップ」の2つについて、しっかり勉強してください。そして、必ず地域の活性化に生かす動きを地域の自治体さんなどと一緒に進めてもらいたいと思います。

以上

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