2021.6.7

第二十三回 改正温対法が語るもの

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 脱炭素社会の実現は、再生エネ主力電源化とほぼ同一のことで、地域新電力の役割がこれまで以上に重要になることでもあります。毎回、同じことを繰り返しているのは、脱炭素の動向をお知らせすることこそ、このコラムの主旨と合致しているからです。
 今回は、先日国会で成立した改正温対法についてお話しします。

 改正温対法とは、もう少し正確に示すと、「改正地球温暖化対策推進法」と言います。地球の温暖化を食い止めるための法律、つまり、脱炭素をどう実現するかという政策の基本になるものです。
 法律が5年ぶりに改正されたのは5月26日のことです。基本的な重要点は、2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにすることを「法律に明記」したことです。
そこでは、脱炭素実現への柱を2つ作りました。
 一つは、再生エネの導入に力を入れる「促進区域」を市町村が指定することです。もう一つは、自治体や企業による脱炭素の取り組みを「見える化」することです。今回のコラムでは、後半の見える化を取り上げます。

 まず自治体からです。
 都道府県や政令市などには、再生エネの導入目標を設定し、それを開示することを義務づけました。そして、市町村に対しては再生エネ導入目標の開示の努力を義務化します。多くの自治体が、すでに環境省の進める「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ宣言」を表明しています。その数は400に迫り、人口規模で表明自治体は全人口の8割を超えています。しかし、とりあえず、宣言しておこうというだけで、具体的なロードマップはこれからというところも少なくありません。改正温対法は、自治体が具体的な目標などを立てることで脱炭素を加速させることが大きな目的です。
 目標設定を行うことなどは実際には手間のかかることですし、達成への義務も生まれます。しかし、ポジティブに考えれば、具体的な目標を明らかにすることで、脱炭素に積極的な自治体、地域であることを公(おおやけ)に知らせることが出来るのです。例えば、脱炭素を目指す企業に対してのアピールになります。我々の地域に来てくださいという、企業誘致のPRです。これは、決して悪いことではありません。

 一方、企業はどうでしょう。
 現状では一定の温暖化ガスの排出量(年に3,000トン以上)の企業が国に報告しています。そして、そのデータはインターネット上で公開されています。また、事業所ごとのデータも報告はされていますが、開示請求をしたうえで手数料を払って手に入れなければなりません。
 改正法では、報告を原則として電子システムで行うこととしました。また、事業所等の情報についても開示請求の手続なく公表することができるようになりました。データに無料でアクセスできるようになったのです。また、公表までの期間を現行の2年から1年未満へ短縮しました。

 このように自治体や企業の脱炭素の取り組みをデジタル化し、出来るだけ早くまた無料で公開するようにしたことが、改正温対法の柱の一つなのです。
 自治体や企業にとっては対応が増えることになり、コスト増でもあります。しかし、時代は脱炭素です。それをどう先延ばしできるか、後ろ向きになって努力をしても何の意味もありません。なぜなら、脱炭素はすべての企業や地域、そして最終的にはすべての個人が取り組まなければならない義務だからです。
 どうせやらなければならないことであれば、先んじて積極的に進めることで他との差別化を計ったり、外に向けてのアピールに使ったりした方がましだと思うのは私だけではないと思います。
 投資家や金融機関が企業への融資を決める基準の中で、脱炭素への取り組みはいまや最重要ポイントになっています。もし、企業が二酸化炭素の排出量や削減に努力していることが数値化され、積極的に公開されれば、その評価がそのまま融資などへと結びつきやすくなります。株価などにもプラスに影響するでしょう。
 一方、自治体にとっても、地域の企業や事業所の排出データがわかれば、地域全体の対応が進めやすくなります。もちろん、成績の良い企業に対して補助金、入札などで優先することも十分考えられます。

 改正法の趣旨は、このように地域内で良い取り組み例を作り、経済の好循環や他の地域への波及効果「脱炭素ドミノ」を起きやすくすることなのです。当然ですが、地域間の競争も生まれることになりますが、これはポジティブな競争です。
 この中で地域新電力の役割は山ほどあります。地域の総力を挙げて、地域の価値を上げるためにぜひまい進してもらいたいと思います。

以上

一覧へ戻る