2021.2.9

第十五回 年末年始からの衝撃の出来事 続編(なぜ高騰したのか②)

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 さて、JEPX高騰の原因についての第二弾になります。

 前回は、今回の市場の高騰の直接的な原因は、良く取り上げられているLNGの不足や寒さではなかったということを書きました。日本全体の電力の需給バランスはおおむね取れていたのにもかかわらず、市場で電気を売る量に対して買う量が極端に多く、大きなアンバランスを起こしたことが、高値を引き起こしました。日本全体ではおおかた余裕があったのに、高騰が起きたのです。予備率などを使って、その説明をしました。
 LNG不足や寒さは、とりあえず「きっかけ」と書きました。「原因」は、大きなアンバランスを起こしたものです。そこでは広く想定すれば、偶然が重なった可能性、一種のミス、それから意図的な要素などが考えられます。また、それらが複数、複雑に絡んでいる可能性もあります。

 いったんは高騰が収まった今の時点で重要なのは、徹底的に原因を調べることです。そうでないと、JEPXという日本の電力自由化にとってたいへん大事なシステムが怖くて使えないということになります。もし何かの穴があれば、信頼性を回復するための対策が必要です。偶然とか、ミスとか、故意とか書きましたが、ポイントは、こういうことが実際に起きたことです。つまり、勝手に書いた3つのうちどれかが主たる原因だとしても、それを事前に防ぐ、または、起きた後に緊急的にカバーするシステムが、用意されていなかったことがはっきりしたのです。今後、その穴はふさがれるべきです。

 さて、実際に、JEPXの価格が大きく跳ね上がったのは、昨年の12月26日、土曜日のことです。わざわざ土曜日と書いたのは、年末+曜日が重要な役割を果たしたかもしれないからです。
 26日に起きたことを説明する前に、「想定外の出来事」だったかどうかについて、整理をしておきます。なぜなら、例えば、地域新電力などが「市場のリスクを考えずに、準備していないから、助ける必要がない」という、私にしてみれば、乱暴な意見を唱える人たちがたくさんいるからです。また、想定外、つまり、ひどい天災のような出来事だったとなれば、小売電気事業者に対する支援の仕方も変わってくるからです。仮に、一部が主張する、珍しくないこんなこともありうるという話だと、前に書いた、予防策や緊急対応策もいらないことになります。ここは肝心な点です。

 今回のことで、まず取り上げられるのは、最高価格が1kWhで250円にもなったことです。一般家庭での料金の10倍ですし、JEPXは卸売市場なので、通常の平均元値の30倍から40倍にも及んだ出来事になります。
 電気の取引値段が急に高くなることは、実は世界でも珍しくありません。スパイクと呼ばれ、電気の需要が突然大幅に増えることなどでも起きます。有名なケースの一つに、何年か前のフランスがあります。急な寒さをしのぐために暖房器具が一斉に使われ、フランス国内の電気が足りなくなって、隣のドイツから主に風力発電の電気を緊急に市場調達しました。フランスは暖房の電化が進んでいたことと、その冬、たしか2月ですが、例年にない寒さに襲われたことが背景にあって、市場からの調達価格が一時、通常の10倍を超えたと記憶しています。
 一方、今年の1月に、LNG不足や寒さに見舞われた欧州市場でも価格上昇がみられましたが、一日の平均で見れば、せいぜい2倍程度でした。これが、世界では価格高騰の基本的な常識なのです。

 今回日本では、前に書いたように高値が40日間も続きました。
資源エネルギー庁の委員会の委員も務める東京大学の松村教授が2月1日に示した緊急提言で、「今回の問題は、卸価格が高いコマがあったことではなく、社会的費用に見合わない高騰が異常に長く継続していることにある。」と書き、『異常』と断定しています。続く提言の最後に、「問題をはき違えてはならない」と強く締めくくっているのが印象的です。
 私の考えも全く同じです。あえて付け加えれば、全体の需給がほぼ取れているのに起きたことが、その異常さをさらに増大してさせていると思います。
 SNSなどでは、“対策を行わない新電力の自業自得”などひどい言い回しも見られます。ところが、実際にダメージを受けているのは、地域新電力などの“素人”ばかりではありません。ちょうど3月期末の決算を控えているエネルギー企業も多いのですが、たくさんの“プロ”の大企業の小売電気事業者も大きな損を計上しているようです。そらみろ、という揶揄(やゆ)をする気持ちは全くなく、今回の事象は、どこから見ても想定外だったのです。

 もう一つ書いておきます。
 今回、私は20から、30社以上の地域、自治体新電力の具体的なケースにあたる機会を得ています。その中で、大半の新電力は何らかのリスク回避策を取っていました。中には結果としての回避策もあるのですが、実際に、50%をJEPX以外から固定価格(相対契約が中心)で仕入れていたところも、20倍以上のような値段の前には、危機の先延ばし程度の効果しかありませんでした。
 ある大手の新電力が、今回の被害を避ける方法は、100%JEPX以外から仕入れておくしかなかったと言い、それではJEPXはいらないということになってしまうと嘆いていました。
 しかし、100%JEPX以外というのはリスク回避という観点から見ると、とても変な話になります。一般的に資産運用などを行う場合、ポートフォリオといって、資産を複数先に分割して運用することが推奨されます。一か所だけで運用した場合、異変が起きるとすべてを失うリスクがあるからです。今回、ある新電力が8割くらいを天然ガス発電からの相対契約で電気を買っていたケースを見つけました。ほう、上手に損を免れているという評価を受けていました。そうでしょうか。今回のきっかけが、天然ガスの不足にあったということは、ひょっとすると燃料が来ずに天然ガス発電が途絶えるという可能性もあったのでは、と考えてしまいます。

 今回のコラムは、JEPXの高騰が異常で、想定外だったということだけで終わってしまいます。すみません。ただ、乱暴な議論がかなりまかり通っていることなどから、できるだけわかりやすく説明するためでもあります。
 もちろん、次回「なぜ、高騰したのか③」では、「12月26日土曜日に起きたこと」に必ず触れます。

以上

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