2021.2.25

第十六回 年末年始からの衝撃の出来事 続編(なぜ高騰したのか③)

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 JEPX高騰の原因についての第三弾です。

 少し時間が空きました。
 この間、JEPXはずっと落ち着いています。東日本大震災の余震が10年を経て起き、新幹線が長い間止まるなどの被害も出ましたが、卸売市場はほぼ平静でした。考えると、狂乱の高騰は何だったのか不思議にさえなります。一方で、アメリカテキサス州で異常寒波による停電が続き、多くの死者が出ました。電気の価格も跳ね上がって日本でもニュースになりました。
 言い方はそれぞれですが、これを取り上げて、JEPXの高騰と同列に扱う人たちがたくさん出てきています。資源エネルギー庁の委員会での配布資料にも登場しました。同列に扱う中で、燃料確保などが大事だという主張はおかしいとは思いませんが、だから日本で起きた高騰は異常ではないとする声もあって、困ったものだと思います。
 テキサスでは、本当に電気不足で凍死者まで出て、電力価格も驚くほどの高値になりました。しかし、日本の場合は、結局、燃料は足りていて、それでも高騰が長く続いたのです。これが『異常』だと前回繰り返して説明しました。燃料事情がひっ迫しないような今後の対策が大事なのは、言うまでもありませんが、実際に起きたことをなんとなく変えてしまうような言説は慎むべきです。

 さて、今回のテーマは「12月26日土曜日に起きたこと」です。
 前回までお話ししていたのは、日本全体の需給は、需給のひっ迫の短い間でも、発電側や送配電会社の努力でなんとかバランスが取れており、高騰が続いた40日間で見ればほぼ安定していたと書きました。
 ところが、12月26日に、電力の卸売市場(JEPX)では(*日本全体の需給ではないことが重要)、電気を売る側と買う側のバランスが大きくずれて、結果として、市場での価格が異常に上昇しました。約定といって、売り買いが成立は売りの量にぴったり重なって、多くの買い入札が不成立になりました。
 実は、この日、売る側(売り入札といいます)が大きく減少しました。
 一つは、「燃料制約」といって、LNGの不足によって、燃料は無くなっていないものの使うのを制限したことにより、天然ガス発電施設の一部が停止や出力を下げた結果として発電量が減ったことによるものです。
 もう一つは、グロス・ビディングの停止です。旧一電(旧一般電気事業者:東電、関電などの電力会社)は、日本の発電の8割以上を担っていて、一方で、小売りのお客さんもやはり8割以上持っています。つまり、旧一電の中で、直接、電気のやり取りがをすればよいので、過去には、余剰分だけしかJEPXに売りとして出てきませんでした。しかし、2016年に東京電力が長期間にわたって市場操作を行っていたことが発覚し、身内で使う電気の一部もいったん市場に売ったのちにもう一度買い戻すという、一見面倒な作業を行うことにしたのです。これをグロス・ビディングといいます。市場の透明性や価格の安定が図れるということがその理由です。

 ところが、26日に旧一電の一部がグロス・ビディングを停止しました。
 先に示した「燃料制約」と合わせて350万kWhというかなりの量の「売り」が減りました。グロス・ビディングは停止しても買いも止めるので影響はないとされていますが、なぜか、旧一電は全体で買いも増やしています。
 26日が土曜日だったことを前回のコラムから強調していますが、実は、年末年始は毎年大幅に電力の需要が減ることがわかっています。カレンダーによって、日付は変わりますが、昨年も今年も年末年始の休み入り(今年は26日土曜日)に実際に大幅に需要が減りました。ところが、市場では買い入札がそれほど減っていません。その傾向は、年末年始の間も変わらず、逆に拡大していきます。1月初旬あたりには、売りと買いの差が400万kWhにまで開いて、電気の取引価格が一時250円にもなったのです。

 ここで疑問を持つ方も多くおられると思います。私もそうでした。売りが大きく減って、買いがそれほど減らず、買い側の不成立が莫大に出れば、買えなかった新電力などの小売事業者は、電気を届けられずに停電するしかないのでは、と。
 ところが、そういうことには全くなりませんでした。
 日本全体で電力の需給を調整する送配電事業者は、そのために予備を持っています。実際にそれを使って、市場で電気を買えなかった小売事業者に電気を供給し、問題が起きませんでした。買えなかったことをインバランスの発生と呼び、予備を供給してもらう場合、インバランス料金といって、普通はその分高い電気代金を払うことになります。
 何度も繰り返しますが、日本全体では電気は足りていたのに、市場だけで大きくバランスが崩れることが長く起きたのです。だから、これは異常で、テキサスで起きたこととは、全く違うのです。

 では、26日をひとつのポイントとして、何が実際起きていたのでしょうか。
 偶然、ミス、誰かの意図など、いろいろ想像はたくましくできますが、断定するだけのデータや証拠がありません。ですから、情報の徹底的な開示と原因の究明が必要だと思うのです。
 例えば、「燃料制約」や「グロス・ビディングの停止」も、その行為は間違っていることではありません。しかし、その理由にきちんと根拠があるかどうか、その内容が実際にどうであったかによっては、高騰に結び付いた原因となる可能性があります。例えば、26日に行われた天然ガス発電の停止や出力低下が、年末の需要激減対応の毎年行われていたルーティンだったとすればどうでしょう。単なる想像をするのはよろしくないので、これくらいにしておきましょう。いずれにせよ、今後の安心できる市場のためにも必ず、情報を広く提供することが必要です。

 今回で、いったん、高騰に関するコラムは納めます。
 これから、インバランス料金の支払いがどっときます。体力的に持たない新電力もこれからさらに出てくる可能性もあります。異常なものを異常ではないなど、現実を見ない議論は、何も生みません。
脱炭素に向けて、再生エネやそれを扱う新電力の重要性は増すばかりです。今回の異常な出来事を、必ず将来に向けて生かせるように出来なければ、日本の未来はありません。

以上

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