2021.2.2

第十四回 年末年始からの衝撃の出来事 続編(なぜ高騰したのか①)

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 JEPX(日本卸電力取引所)の電力卸売価格の高騰は、年末年始どころか、先週21日の週まで、一か月以上にわたって続きました。今は、市場は昨年並みの数字にまで戻り、まるで何事もなかったかのようです。毎日、JEPXの翌日渡しの値段をどきどきして見ていた身にとっては、不思議な気さえします。
 さて、時間が経ってわかってきたことと、いまだにわからないことがはっきりしてきました。今回は、特に原因について書きたいと思います。

 前回のコラムでは、高騰の理由の可能性について2つ書きました。
 一つは、日本の現在の発電の主力燃料である天然ガス(LNG)の不足、そして、もう一つは、年末年始の寒さです。雪が多かったり、普段積もらないところで積もったりと、今年の冬は寒いと感じた方がほとんどでしょう。

 まず、はっきりしたことは、この2つは、高騰の直接的な原因ではなかったと言うことです。え、新聞とかでもそう書いているしという方も多いと思います。もちろん、無関係ということではありません。
 私は、すでにあちこちで「きっかけ」という言葉を使っています。つまり、この2つがあったので、JEPX高騰につながったと思われますが、直接の要因ではないということです。言い換えると、このような天然ガス不足と寒さがあっても、高騰にならなかったかもしれないと考えています。

 これを説明するには、日本全体の電力の需給と、電力の卸売取引の説明をする必要があります。
 日本全体の電力需給のバランスは、発電所で作る電気の量と私たち電気の消費者(企業なども含みます)が使う需要の量で決まります。これを、送配電事業者という送電線を管理する事業者などが、事前に発電事業者などからの情報を収集したうえで調整し、停電が無いようにバランスを取っているのです。
 一方、電力の卸売取引市場(JEPX)は、発電事業者が発電する電気の余剰などを自前の発電施設を持たない小売電気事業者(多くの地域新電力も含まれます)に売る取引場所です。ここで取引されるのは、日本全体の電力の最大4割程度と言われています。
 つまり、ここには2つのバランスポイントがあるのです。日本全体の需給と、JEPXというマーケットでの売り(発電)と買い(需要)のバランスです。今回は、日本全体の需給はおおむねバランスが取れていました。ところが、後者の卸売市場では、大きなアンバランス、売りに出す電力量が少なく、買い側の量が大きいということが起き、この結果、売る量が足りなくなって値段が跳ね上がったということです。

 さて、ここまでは、まず理解できたと思います。
 では、日本全体の需給のバランスがおおむね取れていたという点について、説明しましょう。
 確かに、天然ガスの不足はあったようですし、寒かったのは皆さんが受けた通りです。しかし、実際には停電(雪関連の事故は別です)も発生しませんでしたし、東日本大震災のような政府の節電要請もなく、また、工場などが臨時に操業停止することもありませんでした。
 もう少し具体的な事実でお話しします。需給が取れているかどうかを示すものに「予備率」があります。これは、発電の余裕がどのくらいあるかを表すもので、これが予備率3%以下になると、いわゆる「需給のひっ迫」という状態です。停電の危険があることのシグナルになります。各地域(東京電力管内、関西電力管内という10の地域分け)で数字をまとめます。今回の高騰で、資源エネルギー庁は、1月19日の「スポット市場価格の動向等について」という資料で公開しています。この数字は、一日平均ではなく、一番余裕がない時間帯(電力使用のピーク時)のものです。需給のバランスが取れなくなると停電するので、当然のですね。

 その資料を見ると、今年の1月の10日前後(1月6日から15日の10日間)で、各地域合計で17コマの「3%以下が起きています。10地域で10日間なので計100コマのうち15コマ、15%ということになります。東京、中部、沖縄は全くなく、1月13日、14日もゼロなので、もう少し地域と特定の日に集中した感じはあります。
 今回、JEPXの価格が異常な値を付け始めたのが、12月16日で、平常に収まったのが26日くらいなので、およそ40日間としましょう。この間だけをピックアップするとして、400コマのうち15コマで4%弱になります。
 資源エネルギー庁が予備率をまとめた資料は、19日のものしかありません。この中では、予備率は1月3日から17日までの数字しかないのですが、出す必要が無いから出していないと見て、他の日はひっ迫した予備率ではなかったと判断しています。

 私が、「全体として、おおむね需給バランスが取れていた」といったのはこういう訳だからです。この4%のコマ(地域・日)は、あきらかに需給がひっ迫していましたが、需給バランスが取れなくなって、停電、節電要請、操業停止が起きたたわけではありません。
 誤解の無いように書いておきますが、需給ひっ迫の先に起こったかもしれない停電が避けられたのは、発電、送配電事業者、広域機関などの懸命の努力があったからです。その活躍のおかげで、大変なことにならなかったということは、ここで強調しておきます。

 ところが、一方で、全体の4割程度を扱うJEPX、電力の卸売市場では、驚くべきことが起こりました。前回も書きましたが、ピーク時で1kWh250円、一日平均でも150円という高値を付けたのです。そのままの値段で小売りに回れば、一般家庭で1か月10万円程度の電気料金にもなる高騰です。
 一方で、ほぼ需給バランスが取れ(日本全体)、もう一方では、同時に20倍もの値段が付くということが起きたのです。
 ここで次に、最初に書いた、「市場への電気の売りの量が少なく、買いの量が大きく上回ってアンバランスになった」ということが、ポイントになるのです。

 今回の出来事は、私は、異常、もしくは、想定外だと思います。
 これをどう見るかが、例えば、マーケットの値の上がり下がりは当たり前で、準備をしなかった新電力が悪い、という言い方や、ダメージを受けた小売電気事業者への対応、市場システムへの対策などが違ってくることになります。

 通常より、かなり長いコラムになりました。
 次回は、売りと買いのギャップがなぜ起きたのか、想定外の出来事だったのか、などについてお話しします。

以上

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