2021.1.19

第十三回 年末年始からの衝撃の出来事

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 新しい年が明けて、二週間が経ちます。
 新型コロナは拡大を続け、多くの都府県で「緊急事態宣言」が発せられています。これはこれで大変な事態ですが、地域新電力にとっては、さらに別の異常事態が続いています。

 年末から始まった、JEPX(日本卸電力取引所)の電力価格の高騰です。例えば、3連休明けの12日のシステムプライスは、最高で1kWhあたり210円、一日の平均で150円になりました。何のことだとぴんと来ない方もいらっしゃると思いますが、普通の家庭での電気料金は、1kWhあたり25円くらいなので何倍にもなります。ただし、これは卸売市場なので、昨年1年の平均の卸売値と比べると平均で20倍を超えます。
 これが月末まで続くと、1か月7千円くらいの電気料金を払っている家庭の今月の料金が14万円になってしまいます。安心してください。ごく一部、「市場連動の料金プラン」に入っている家庭はこういう可能性もありますが、一般的なプランは固定された料金なので、そんなことは起きません。

 でも、考えてみて下さい。多くの地域新電力は、JEPXから電気を仕入れているので、もし14万円という一見すごい料金をもらっても、儲けはほぼいつも通りです。それどころか、最初に固定された料金で電気を供給すると、軽く10万円も損をするのです。それも、一つの家庭のお客さんだけで、です。
 そういうことで、今、JEPX市場から多くの仕入れをしている地域新電力を含む新電力は、毎日毎日大きな赤字を拡大させているのです。すでに、会社の経営が困難になりかかっている会社も少なくありません。

 では、なぜこんなことが起きてしまったのでしょう。
 言われている原因のひとつは、発電の燃料の天然ガスの不足です。天然ガス発電は日本のほぼ4割の電力を担っている現状での主力電源です。中国がガスをいっぱい取ってしまったとか、パナマ運河がコロナの影響で人手不足になり、天然ガスの輸送船が渋滞しているという話まで飛び交っています。もう一つは、年末年始の寒さです。特に年明けは、大雪になりました。結果として、暖房用の電力使用が増加して、各電力会社の電力利用率が90%を大きく超えたのです。
 ここまでは、確かにそうだなあと思えるところです。ところが、その原因と20倍、30倍の電力価格とは論理的には結び付きません。天然ガスの値段は上がっていますが、別に20倍などにはなっていません。節電要請も出ていませんし、前日の需給調整は苦労しながら成立していますし、電気が足らずに止まった工場の話も聞きません。
 また、欧州の電力市場も値上がりしていますが、ピークで2倍以上になったものの、平均では1.5倍程度です。今は、落ち着いているようです。これが普通の出来事でしょう。
 日本では、天候や燃料不足に対して、発電側の人たちが必至の努力をして停電を防いだことは事実です。しかし、発電の入札の際に取った行動が今回の高騰を招いた可能性は現状では否定できません。
 とにかく、このままではまともなマーケットとは、とても言えません。せっかくの電力自由化がとん挫することになりかねないのです。

 こういう事態について、一般的にいくつかのリスクを避ける方法はあります。しかし、今回のように狂乱的な高騰に対しては、ちょっとした準備ではほとんど効果がありません。なぜこういうことが起きたかという検証も必要ですし、正直言って、これによって大きなダメージを受けた事業者に対する救済策は必須だと考えます。

 もうひとつ、重要なことがあります。
 いまは、確かに新型コロナ対策が重要な課題です、しかし、将来の日本の姿、経済、さらに世界の課題を含めて考えると、やはり「脱炭素」がぐっと上にきます。
 ところが、今回の出来事で、再生エネ発電施設(FIT制度の中、固定価格で買い取られている分)からの電力価格も跳ね上がっています。これは、JEPXに連動するシステムを取っているからです。今回の影響をより多く受けたのが、電力の地産地消を進めている地域新電力なのは、FIT電源をより多く扱っているからです。これでは、政府の進める脱炭素化に反することになります。化石燃料の不足が、再生エネを進める地域新電力を痛めつけるという悲しく皮肉な現実です。

 まだ、異常な状況は解消されていません。今ちょうど、天気の一か月予想をテレビで行っています。月末から2月にかけて例年より暖かくなるようです。少し、救いが見えます。
 今後さらに新電力や地域新電力の様々な窮状がマスコミなどに載ることになるでしょう。繰り返しますが、脱炭素や地域活性化に掉さすこの事態をとにかく早く収拾し、もう一度正しい道に戻してもらいたいと考えます。地域新電力の灯を決して消さないでください。

以上

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