2020.11.30

第十回 脱炭素が重要トレンドに

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 堰(せき)を切ったように、と言うべきなのでしょうか、脱炭素への大きな流れが日本に押し寄せています。
 10月26日は、日本の再生エネにとって記念すべき日になりそうです。

 菅首相が国会の所信表明演説で、「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を宣言して、まだ1か月しかたちません。先日G20のWEB会議では、日本はこれを国際公約にしました、また、衆議院は11月19日の本会議で、「気候非常事態宣言」を採択しました。決議では、「世界はまさに気候危機と呼ぶべき状況に直面している」と指摘し、さらに「一日も早い脱炭素社会の実現に向けて、国を挙げて実践していくことを決意する」と宣言しています。
 早急なCO2の削減は日本の経済を弱めると繰り返していた鉄鋼などの財界中枢(旧が付くかもしれませんが)にとっては、かなりの唐突感があったようです。確かに、私から見ても手のひらを返したように、とも映ります。

 しかし、世界のレベルで見れば、この動きはとっくに当たり前になっていました。特に欧州はその先端を走っています。ここまで来ても脱炭素をためらっていたら、日本は政策の遅れだけではなく、国際競争力を含め日本経済の衰退に拍車がかかっていたでしょう。そういう無意味では、ギリギリ土俵際で踏みとどまることができたと言えるかもしれません。正直言って、少しほっとした気分です。
 お上(おかみ)が決めると、わっとそちらの方向になだれ込むというのが日本の“伝統”です。いい悪いは別にして、これで国内の脱炭素の流れは確定しました。国際的には脱炭素のスピード競争が進んでいるように、日本の中でも同じことが起きます。かくして、脱炭素は2020年に日本の重要トレンドとなりました。

 「脱炭素」には、2つの要素があります。
 一つは、自らの脱炭素化です。日本政府が宣言はしても、自治体や企業などが実践しないと何も実現していきません。
 まず、民間企業が一気に走り出しました。例えば、私が前から懇意にしているある大きな企業からは、菅首相のカーボンゼロ宣言の直後に、全社を挙げて脱炭素に取り組むことを決めたと相談を受けました。よく聞くとアップル社との大きな取引もあるようです。アップル社は、RE100に早くから参加し会社としての再生エネ化をすでに実現しています。今は、部品や原料を納めるサプライチェーンの脱炭素化にまい進しています。すでに2030年までの納入業者の脱炭素化も明言していて、アップル社との取引を続けるためには、自らCO2フリーにならないと仕事を失うことになります。
 このように、世界的であったり大きな企業であったりすることが、脱炭素を求められる要件ではありません。下請けを含めた中小企業まですべてが脱炭素化することが必要になるのです。

 もちろん自治体もたいへんです。カーボンゼロ、またはカーボンニュートラルになるためには、電気だけでなく、熱やガソリンなどの交通エネルギーも化石燃料から脱却しなくてなりません。熱のCO2フリー化は、再生エネ先進国のドイツでも苦しんでいて、なかなか進んでいません。一方で、このところ、いくつもの国が次々と脱ガソリン車を政策に取り入れ始めました。今は、交通エネルギーの脱炭素化が一番遅れていますが、熱の前に交通革命が起きるかもしれません。
 自治体はただ汗をかき費用を使って脱炭素に向かうということではありません。自治体にとって先立ってCO2を減らすことは、それだけ企業や人をその地域に呼び寄せることができるチャンスなのです。今後企業は、脱炭素化に欠かせない再生エネを求めて「あちらこちらを探索する」ことになるでしょう。再生エネが企業誘致のカギになることは誰もが気付く常識です。

 もう一つの脱炭素の要素は、脱炭素化ビジネスです。
 おわかりの通り、脱炭素化を進める企業や自治体は再生エネの巨大な需要家になります。そこへ再生エネ(電気、熱など)そのものを届けたり、売ったりすることはまず直接的なビジネスです。また、再生エネがたくさん使えるようにするための関連する技術やシステム構築などすべてが大きなマーケットになります。例えば、いわゆる再生エネ拡大のための「柔軟性の確保」は間違いなく今後大きなビジネス領域になります。最もわかりやすい蓄電池から始まって、DRやVPP、調整力市場への対応などと山ほど控えています。

 地域の新電力は、この重要なトレンドを理解したうえで、対応していかなければなりません。脱炭素化の最大のツールは再生エネです。口が酸っぱくなるほど繰り返していますが、再生エネは地域の資源です。必ず地域主体で利用できるように、地域新電力は地域の核の一つとならなければなりません。自治体や地域の民間企業、各種の団体、もちろん住民も巻き込んで取り組んでもらいたいと思います。
 地域の振興、、、別の角度からあえておおげさな言い方をします。地域の存亡が、重要トレンドなった脱炭素化への対応にかかっていると言っていいかもしれません。地域新電力は電気を小売りしているだけの時代は終わりつつあります。地域と一体となって再生エネの利活用などによる活性化の旗を力強く振ってもらいたい、それが今回のコラムの結論です。

以上

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