2020.11.12

第九回 再生エネ拡大の国際競争時代

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 このコラムを書いている11月8日、大きなニュースが飛び込んできました。バイデン氏が次のアメリカ大統領になることが確定したのです。実は、このことは世界のエネルギー、特に再生エネの行く末に大きなインパクトを与えます。
 今回は、世界情勢にも目を向けて、再生エネの未来のお話をします。

 アメリカは、このわずか四日前にパリ協定からの正式に離脱したばかりでした。ご存知のように、パリ協定は2016年に発効した地球温暖化対策の国際的な枠組みです。世界のほとんどの国や地域が参加し、二酸化炭素の増加による温室効果が引き起こす気候危機を防ぐための取り組みを進めています。省エネによるエネルギーの削減と再生エネへの転換がその活動の大きな柱です。トランプ大統領が協定から脱退を表明、実行して、その実効性について赤信号が点灯しかけたところでした。
 バイデン次期大統領はパリ協定への復帰を明言しています。世界の二酸化炭素排出の15%近くを占めるアメリカが協定に戻ることは確実で、これは気候危機対策にとっても、再生エネの将来にとっても重要なプラス要素です。
 一方で、アメリカの多くの先進企業は、脱炭素が事業継続、拡大のカギだと理解しています。企業の重要な指標である株価と脱炭素の取り組みとは連動していることは、いくつものデータから証明されています。これは企業の行動に強い影響を与えているのです。トランプ政府が何を叫ぼうとも、アメリカの経済界では実際に再生エネシフトが進んでいました。
 時期を前後して、日本でも政治のトップが変わりました。
 遅ればせながら、2050年に向けてのカーボンゼロ宣言に踏み切ったことは偶然ではありません。今後は、日米の政府ともども「現実的な対応」として、再生エネの拡大にまい進することになります。

 今後のエネルギーを巡る動きを経済的観点も含めて予測してみましょう。
 アメリカが脱炭素の方向に動くことによって、先を走っていた欧州とアメリカの歩調がそろってくることになります。これを考えると、日本のカーボンゼロ宣言はぎりぎりのタイミングだったことがわかります。これより遅いと完全に世界から取り残されることになりかねませんでした。
 今後は、アメリカは政府と民間企業が一致して脱炭素路線を走ることになります。これは倫理的なことだけを意味しません。アメリカ政府は、当然のように自国の企業にプラスになる取り組みを進めます。欧州が脱炭素の取り組みの低い企業に対して「国境炭素税」のような仕組みの障壁を作る動きがあります。当然、アメリカも自国の産業を守るため、脱炭素の観点からの壁を考えることになります。自国産業の脱炭素化に補助を含めた様々な施策を進めることも確実です。
 「ディール」といってむやみな関税を課したり、物理的な壁をメキシコ国境に建設したり、などは、単なる無茶ですが、脱炭素の取り組みの評価からの「排除」や自国への「保護」には抵抗が難しくなります。
 
 コラムには記しませんでしたが、前回ピックアップした日経新聞の「脱炭素、企業価値に直結」の中で、次のような記載がありました。「米大統領選で民主党のバイデン前副大統領が勝利すれば、米国も環境重視へカジを切る。日本も国と企業の両方で脱炭素の取り組みが欠かせなくなっている。」
 日本も官民で本気で脱炭素に取り組んでいかないと、欧米に対して経済的に討ち死にしてしまう可能性も十分あります。ただでさえ日本経済は弱まっています。単に、個人所得など数字だけでなく、技術的な劣勢、さらに目指す方向自体が正しいかどうかさえ問われています。かつての経済大国としての余裕や予備力もありません。
 繰り返しますが、2020年はエネルギーだけでなく、政治、経済、医療など様々な意味での転換点になる気配です。ここでの踏ん張りが日本の将来を決めるといってもいいかもしれません。
 踏ん張りは、地域から沸き起こるに違いありません。それは、地域にこそ様々な資源(リソース)とポテンシャルがあるからです。今、脱炭素が世界を変えるキイになっていることは自然の流れの中のことでしょう。再生エネを手に新しい未来を切り開くそんな時代を私たちは生きています。

以上

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