2020.10.22
第八回 急加速する再生エネの価値上昇
日本再生可能エネルギー総合研究所 北村
新型コロナの脅威はまだ十分残っていますが、GoToシリーズも含めて経済の取り戻しの動きは強くなるばかりです。施策の適否は置いておくとして、コロナを超えた将来への備えが重要なのは間違いありません。
その中で、エネルギー、特に再生可能エネルギーに関する動きも活発です。
今回のコラムは、そんな話をしたいと思います。
まず、日経新聞の記事からです。
18日のことです。いつものようにネットでエネルギー関係のニュースを探っていると、「脱炭素、企業価値に直結」とのタイトルが目に入ってきました。どこの配信かと思うと、日経です。たいていの企業で購読し、通勤電車の中、スマホなどで記事を追っているサラリーマンやOL(この二つの言葉もそろそろ変更した方がよさそうですが)が珍しくない、あの新聞です。
内容は、世界企業の脱炭素への取り組みの差が、株価に大きく影響していることを示したもので、具体的なデータに基づき記事を構成しています。「チャートは語る」とのサブタイトルがついているので、数字を駆使した記事の特集ですね。結論を一言でまとめると、「二酸化炭素から脱却しないと企業の将来はない」です。これを読んだ企業のトップから末端の方々まで、何を思うかと考えると不思議にワクワクしてきました。
記事の発端となったと思われるのは、10月13日に行われたある発表のようです。
世界137の機関投資家が次のような訴えを発したとあります。「気候変動に関する社会の要請や規制が強まり、(脱炭素の)目標を設定しない企業は思わぬコストを負い、事業を失うだろう」です。この機関投資家が運用するのは合わせて、20兆ドル(2,100兆円)という巨額の資産で、その影響力は絶大なものがあります。
これをさらに実効あるものにするために、CO2排出量の多い世界1800社に対して、彼らはまとまって書簡を送り、5~15年先の排出目標の設定を働きかけたというのです。これは、本気です。
なぜ、投資家がここまでの危機感にかられるのかとお思いの方もいらっしゃるでしょう。これは、企業が脱炭素に向けて適切な対応を取らないと社会から淘汰されると真剣に考えているからです。そうなれば、投資家も巨額の損失を被る可能性があるという理屈です。これもよく理解できる論理展開です。
4年半前のパリ協定締結のことを思い出してみてください。当時、石炭産業関連への融資などから手を引くとの宣言がされました。今回の動きの先駆けでしょう。つまり、二酸化炭素の排出を続けていると、企業は銀行などから融資を受けられず、投資家から見放されるということです。
日経の記事をもう少し見てみましょう。企業の価値をチェックする代表的なツールである株価に注目しています。
使われたデータは、世界およそ2000社の二酸化炭素排出量のデータと株式市場の株価の推移です。これを比較して、「CO2排出量が企業価値を左右する」ことを証明しています。
簡単にまとめたものが以下です。差は歴然としています。
■2018年までの4年間で排出量が大きく変化した企業の時価総額(2017年末比)
◇排出量が半分以下となった上位30社 ⇒+15%
◇排出量が2倍以上となった上位30社 ⇒-12%
さらに記事では、日本の対応の遅れを大変心配しているようです。
世界の主要企業の排出量の削減は5%なのに、日本は1%強程度でしかないのです。この心配は、必ず主要な読者である企業の人たちにつながるでしょう。
脱炭素のための最大のツールである再生エネの価値は、日経新聞が強く認めるまでに上昇しているのです。
ほぼ、時を同じくした10月13日のことです。資源エネルギー庁は「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」というたいへん長い名前の会議を開きました。2年前の2018年7月に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」を見直すためです。現状の計画では、2030年のいわゆるエネルギーミックスを、再エネ22~24%程度、原子力20~22%程度などと決めていることで知られています。
見直しのポイントは、電源構成の変更と原発の新増設などと言われています。梶山経産相が、これも日経新聞との単独インタビューで、再生エネを「他の電源に比べ上位の主力電源にしていく」と表明しています。
私は再生エネの枠の拡大する電源構成の変更は確実だと思っています。最初に挙げた記事を理解してもらえれば、経済界、企業側から強い要請があっておかしくないでしょう。
2020年は、再生エネの価値が日本でも確立する年になりそうです。国内の企業、経済界、もちろん、「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ宣言」の表明自治体も含め、再生エネ電力を求める声が強くなることは間違いないのです。
以上