2020.10.3

第七回 カギを握る自治体の協力(下)

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 前回は、鳥取県の企業局が、自ら保有する太陽光発電と水力発電の一部から、特定卸しの制度を使って、県内の3つの地域新電力に対して電力供給を行っていることを書き始めました。
 このことに対してポジティブな評価をするのは、一つ目に再生エネを求める民間企業などが急激に拡大し、その価値がどんどん高まっているという背景があるからです。そこで、地域の生き残りに再生エネを使おうと考えるのは、再生エネが地域分散型電源であり、多くの地域で自らの手で発電などの利活用ができることを考えれば当然のことです。その時、地元の自治体が積極的に再生エネ利用にコミットするかどうかが、地域の将来を決める分かれ目であるとお話ししました。
 鳥取県の今回の例は、地元の市町村が関わる地域新電力と発電設備を持つ県が協力するという素晴らしいケースなのです。今回の一連のコラムの最初に書いた、「自治体の対応がカギ」の中身がここにあるのです。

 さらに重要なのが、単なる電力ではなく再生エネとしての価値利用を一定の地域内(ここでは鳥取県内)で実現できることです。
 FIT電力の「特定卸し」のことです。そこに、どんな意味があるのでしょうか。
 これは、単なる電力の地産地消の話ではありません。このコラムでも繰り返しお話ししている再生エネの価値上昇と密接な関係のある施策なのです。
 温暖化対策という効果を筆頭に、再生エネ電力の利用とその確保は企業の将来を左右するまでの大きな課題になっています。自治体もCO2削減、BCPなどの災害対策や企業誘致など、再生エネの利用は当たり前になりました。再生エネを使ってない企業はいずれ淘汰されてしまうというのは、決して大げさな言い方ではありません。RE100 や日本でのRE Action参加の企業はじわじわ増え続け、再生エネ電力はいずれ需要が供給を大きく上回ることになります。対策として、例えば、再生エネ拡大のためにPPA(第三者保有方式の電力供給システム)などを取り入れる企業や自治体が増えています。

 再生エネ電力の使用と認められる一番手っ取り早いものは、FIT電源に非化石証書を付けるやり方です。このため、今、FIT制度利用の発電事業者を東京など域外の新電力が訪れ、「特定卸し」をやらせて欲しいという声がどんどんかかっています。ここで起きていることは、電力の安売り合戦のいわば逆バージョンです。FIT電力にプレミアムを付けて買い漁(あさ)る方法です。あえて、漁ると書きました。価値の上がる再生エネ電力(非化石証書を付けて初めてそうなりますが)を先取りし地域外に売って稼ごうという新電力と、利益が確定しているFITに加え、さらに儲けようとする発電側の両方を指しています。

 私の主張は簡単です。地域で産んだ電気は、まず地域で利用し、地域に利益をもたらすべきだ、というものです。それが、「地域で産む=発電時」に、まず地域外資本のメガソーラーで浸食されました。今度は、「電気の買い取り時点」でプレミアムによって域外に流出していこうとしているのです。もちろん、自由なビジネスなので強制的に止めることはできません。しかし、プレミアムを付ける側は再生エネ電力の価値を見切ったうえで、それでも儲かるから値を入れるのです。このままでは、結局、メガソーラーの二の舞になるのでは、心配をしています。
 そこに、鳥取県の企業局の行動です。
 鳥取県は、その価値のある電気を優先的に地元の地域新電力に供給しています。よそからの買い取りをある意味で防ぎ、地域の資産を守っているという見方も可能です。ここまでで、今回のケースにどんな意味があるかは、ある程度理解してもらえたのはないでしょうか。鳥取県がこれを実現できたのは、もちろん、県の政策決定(平井知事さんがどのくらい関わっているかは知りませんが)の良さもあります。しかし、受け手の自治体新電力が県内に3つあり、地域をある程度カバーできている点も忘れてはなりません。その土壌があったから施策を打てたと考えるのが良いかもしれません。

 同様に、自ら再生エネ発電を保有し、FIT制度で買い取ってもらっている自治体は全国にたくさんあります。そこで自治体のみなさん考えてみてください。自治体の予算は基本的には住民の税金です(地方交付税の議論は、また別の機会に)。税金によって保有できたものの価値をもう一度きちんと考えてみましょう。FIT電源であっても、うまく使えば買い取り価格の利益以上の使い方ができるのです。面倒くさいから放っておくと言わずに、利活用の方法をうまく検討しましょう。鳥取県は見事な見本です。
 もう少し考えていくと、再生エネの価値を利用するツール=電力を供給する主体が近くにあれば、もっとやりやすいということに気づくはずです。鳥取県内の3つの自治体新電力の存在です。地元にも同様な新電力があれば、どんなに役に立つことでしょうか。

 今回のテーマも、そこに行きつきます。良いことに、一部とはいいながら各地でいろいろな実践のケースが増えています。頭の中でこねくり回している理想ではなく、具体的な地域でのお手本があることに感謝しながら、今回は筆をおくことにします。

 最後に、もう一度、問います。
 あなたのまちは、生き残れますか。

以上

一覧へ戻る