2020.8.27

第四回 地域の声を聞く

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 前回のコラムは、遠くドイツの話でした。だからという訳ではないのですが、今回は、地域、「地元の声」をテーマにします。
 最近、再生可能エネルギーに関して耳にするのは、「○○すべき」とか「あるべき」という、大上段に構えた議論より、実際に「こうしたい、ああしたい」、「○○しなければ」という、実践に移ってきているものです。どういうことかというと、再生エネがそれだけ身近になって、どう使うか、利用するかの現実の話になってきているということです。
 まだわかりにくいでしょうから、さらに具体的な話をしましょう。
 
 まず、自治体さんです。今年に入って、脱炭素を目指す自治体が急激に増えてきています。環境省が主導する「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ宣言」を表明する地方公共団体が、年初の30台の団体から五倍に迫る150団体へと拡大しました。自治体間で、宣言の競争があるのではと思うほどです。表明しただけでは終われないので、実際にどうやってゼロを達成すればいいかという相談が私のところへくるケースも少なからず見られます。再生エネ電力に切り替えるのに、例えば、自治体新電力を設立して、自分で再生エネ電力を調達する道筋をつくってみてはどうか、とアドバイスすることも多々あります。
 民間です。
 こちらは、かなり積極的に再生エネ電力をかき集め始めています。PPAという仕組みで第三者に再生エネ発電施設を作ってもらい、そこから契約で電力の供給を受けるやり方が密かにブームになっています。今のところは、RE100という世界的な企業が作る再生エネ電力100%を目指す協議体への参加者が多く、いわば“走り”となっていますが、それが徐々に他の企業へ広がっている感じがします。動き始めた会社の規模も、大会社から中小規模へ広がってきています。

 RE100は大企業用なので、昨年秋立ち上がった中小企業や自治体が参加できる「再エネ宣言RE Action」を志向する向きも珍しくなくなりました。業界で初めてのRE Action参加会社になりたいという話も聞こえてきています。背景には、RE100やRE Actionが単なる“宣言”ではなく、実際のビジネスに直結してくる現実があります。中小企業目線でいうと、RE100に参加する世界的企業が自らのサプライチェーンにも脱炭素化を要求し始めていることを、脅威と感じているようです。RE100参加のアップルは、すでに社内のRE100化を終えていて、製造などの下請け、部品供給会社に2030年までの脱炭素を命じたばかりです。
 世界企業クラスに限らず、多くの中小の企業にとっても、再生エネ利用は事業継続についての必須アイテムになったといってもよいでしょう。

 自治体の再生エネ化は、温暖化対策のシンボルという位置づけもありますが、より良き地域を創り、地域を活性化するための手段のひとつと考えられるようになっています。SDGsの実現やもう少しわかりやすく、再生エネを求める企業誘致のツールと言えば、さらに理解しやすいでしょう。
 再生エネが利活用できる環境を、自治体や地元の民間企業が心底から求めるようになるのにそれほど時間がかからないでしょう。それが、今回のテーマ「地域の声」です。

 再生エネに関する地域の声が、これほど強くなってきたのは初めてのことだと思います。これまで再生エネに関わることといえば、FIT制度の高い買取価格を狙ってがんがん増えてきたメガソーラーのように、必ずしも地域の要求とは一致していない、事業者側の意向ばかりが目立っていました。
 新しい地域の声は、再生エネの需要家からの声です。少し専門的な言い方をすれば、発電事業者によるプッシュ型の再生エネから、使う側の要求によるプル型に変わってきているといえます。例えば、政治の世界でよく言われ、実際にはほとんど掛け声だけに終わる「地元に寄り添う」という言葉がありますが、地元、地域の声に請われて提供する新しい再生エネのスタイルは、まさしく「地元に寄り添うエネルギー」となり得るのです。
 ここで、重要なポイントがあります。
 その、「地元に寄り添うエネルギー」を誰が創って、誰が提供するかということです。私がいつもお話しするのは、その役割をぜひ地域で担ってもらいたいということです。これまでのプッシュ型の再生エネでは、多くのメガソーラー事業のように地域外の資本がやってきて施設を建設し、利益も持ち出されるケースが目立ちました。
 これからは、再生エネを地元の声が求めるように、需要サイドに地域が登場してきました。再生エネを生み出し、それをハンドリングするプレーヤーもぜひ地域が主導して参加してもらいたいのです。地域の発電事業者さん、地域の小売電気事業者さん、そして、それがうまく運ぶように自治体さんも積極的に仕切って、ルール作りもやってもらえればと思ってやみません。
 地域から積極的な再生エネ需要家が生まれることは、大きな変革のきっかけになるでしょう。地域のステークホルダがそろって地元を向いて事業を行うことが、これからの地域の再生エネビジネスを大きく花開かせることにつながるのです。

以上

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