2020.8.6

第三回 コロナの後の世界の常識

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 8月に入りました。
 今年、2020年は、多くの人にとって毎年普通にあった季節感やそれに合わせた日常がまったく変わってしまった特異な年となるのは間違いありません。残り5か月ですが、そこで何が起きるのか、きちんと言い当てられる人もいないでしょう。
 人は、強烈な体験をいつまでも忘れずに心に残すものです。普通は個人や家族の範囲や地域、特定の学校など、体験は一定のエリアで起きるので、「ある人の驚き」は同時代に生きる他の人と必ずしも共有するものではありません。ところが、9年前の東日本大震災では、驚愕を日本全体で共有しました。私も地震の瞬間を今でも鮮明に覚えています。今回の新型コロナは、それが世界レベルでの共通になってしまったのです。それくらいの出来事が今動いていることをまず自覚しましょう。

 今回のテーマは、ドイツで進む再生エネ電力の拡大です。ちょうど7月までのある統計がほぼまとまったので、取り上げてみました。
 ドイツの著名な研究機関、フラウンホーファー研究所ISEは、ドイツ国内の発電量の統計をビジュアル化しています。以下が、ISEのエネルギーチャートのWEBサイト:https://www.energy-charts.de/energy_pie.htmです。
 自家発電を除いた電源別の円グラフです。出てくるのは、2020年の1月からの総発電量です。ご興味の強い方は、WEBサイトを訪れてみてください。
 私がこれをお見せするのは、ドイツ単独のことを言いたいからではありません。コロナの影響を受けた世界の一般的な流れを具体的に知ってもらうためです。

 さて、1月から7月までの総発電量の中での数字をいくつかピックアップしておきましょう。まず、再生エネによる発電量の割合です。これがちょうど55%になりました。6月末でも55%を超え、再生エネの発電量が過半数になっていましたが、7月末でもそれが続いています。2019年年間の割合は46%だったので、9ポイントの増加です。
 ちなみに、再生エネによる発電量が、全体の4分の1、25%を超えたのが8年前の2012年でした。そして、3年後の2015年でちょうど3分の1です。続いて、やや停滞しながら2018年に4割を超えました。全体として、順調に伸ばしてきているのですが、今年の前半には、わずか数か月で二けた近くポイントを伸ばすという、驚異的な拡大があったのです。

 実は、そこには新型コロナと密接に関係する理由があります。そこで全体発電量の具体的な数字を取り上げます。
 さて、今年の7月末までの総発電量は、276.6TWhです。日本の統計では、kWhを使うことが多いので、換算して2,766億kWhに直しておきます。一方、昨年1年間の発電量は5,186TWhです。比較のために1か月あたりにすると、2020年は395億kWh、2019年は432億kWhとなります。今年の月平均の発電量は昨年より1割近く減少していることがわかります。
 新型コロナでドイツでもロックダウンや自粛が進んで社会経済活動が停滞したために、電力の需要が大きく落ち込んだのです。一方で、1月、2月は風況が良く、特に風力発電が伸びました。この2つの要素が複合的に作用して、再生エネ発電の割合が飛躍的に増えたのです。電源別では風力発電がトップで、全体の28.9%と3割に迫る勢いです。
 化石燃料による発電も見ておきましょう。こちらはお分かりのように減っています。
 特に落ち込みが激しいのは、石炭火力発電です。質は悪いのですが自国で生産できる褐炭と輸入石炭とを合わせ、ドイツでは石炭火力が長い間、発電の主力でした。それが、今年は風力発電を大きく下回る19.9%まで減りました。3年前の2017年は、石炭(褐炭+石炭)でほぼ4割、風力は2割弱だったのが、2019年には、石炭3割弱、風力25%弱とほぼ並びました。そして、今年は大きく逆転したのです。

まとめます。
(1)新型コロナで、電力需要が大きく落ち込んだ。
(2)その中でも、再生エネ電力は拡大を続けている。
(3)化石燃料は衰退し、特に石炭発電の落ち込みが激しい。
 これは、ドイツだけの現象ではありません。数字の大きい小さいはあるものの、傾向は一貫しているのです。
 
 最近、それでも日本は日本で特別、独自の道がある、というような変な理論を掲げる人も出てきました。最後の抵抗とでもいうのでしょうか。
 問題は、そんなことを行っている間に、日本だけ取り残されガラパゴス化してしまうことです。再生エネが主力ということとこれまで化石燃料が主力だったということの間には、大きな壁があるのです。今重要なのは、どちらが安いとか使いやすいエネルギーかということではなく、CO2を排出しないエネルギーかどうかということなのです。そうでなければ、石炭が消えていく理由がありません。
 再生エネで作らないと物は売れません。石炭に頼る事業は、まもなく存在しなくなります。どちらを使うかに選択の余地はないのです。ビジネスを進めるか、あきらめるかの判断を迫られる時代が目の前にきています。

以上

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