2020.7.27

第二回 ひとまとめでは語れない新電力

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 小売電気事業者、いわゆる新電力の数からお話ししましょう。
 資源エネルギー庁のWEBサイトでは、7月20日現在で664事業者となっています。最後の事業者の番号は716番なので、52社がすでに撤退していることがわかります。制度がスタートして丸4年が過ぎて、数百という新電力が誕生し、そのおよそ1割弱が姿を消したわけです。先達であるドイツでは21世紀の冒頭に小売り自由化となり、100を超える新電力が生まれました。しかし、送電事業者の託送料値上げ攻撃にさらされて、わずか4社にまで減るという驚くべき現象が起きました。それに比べれば、日本はソフトなスタートになっているのかもしれません。

 さて、今回のテーマは、「新電力というまとめた名前がついているとはいえ、もうひとくくりでは語れない」ということです。
 現在の6百数十社という新電力の数は、制度スタート当初は私も想像していませんでした。ドイツの例から、また、旧一般電気事業者が強力で地域を独占していたことから参入は簡単ではないと思ったからです。一方、地域を元気にするツールとしての役割に小さくない期待をかけていました。数は、確かに増えましたが、その内容は本当に様々です。そのあたりをこのコラムで整理しておきたいと思います。様々な新電力があるのですから、その役割や事業評価、将来性もひとくくりで語ってはいけないのです。

 では、新電力で、まずどこを思い浮かべるでしょうか。
 東京を中心とした大手のエネルギー会社が、多くのテレビCMを打っているので、そこが一番ポピュラーに感じるかもしれません。多くは、元の会社が小売電気事業者の登録をするだけなので、新しい会社という訳ではありません。東京ガスやENEOS(JXTGが6月より社名変更)などが有名です。続いて、都市部のエネルギー以外の異業種から大きな会社が参入したものです。丸紅新電力などの商社系や少し珍しいところで電鉄会社系の東急パワーサプライのような会社もあります。
 重要なのはここからです。これらの特徴は、全国や大規模地域を営業範囲として、小売りを行っているところです。一方で、F-Power(小売電気事業者登録の第一号)やLooopのように独立系で広いエリアで競う新興の新電力もあります。

 反対に、エリアを限定する新電力の勢力がいます。
 私がコラムで主に取り上げるのは、こちらの方ですね。ただし、こちらもカテゴリー分けができます。ひとつは、地元の都市ガス、LPガスの会社が登録するケースです。ガスと電気のセット販売をするものがほとんどです。また、ガスという商材に限らず、CATV会社がセット契約する場合もあります。どちらもB to C(消費者相手の販売ビジネス)で、営業や料金徴収が効率的に行えるだけでなく、元の事業の顧客防衛や拡販につなげる一石二鳥の効果が期待できます。
 もう一つのカテゴリーは、地域を前面に打ち出した、地元資本主体の新電力です。私は、地域新電力と呼ぶことにしていますが、自治体の資本が入ると自治体新電力と別扱いすることが多いです。

 大手のエネルギー会社、加えて、異業種からの参入、それに独立系という最初の塊は、全国規模の顧客を対象とし、ほとんどが値段の安さを中心に勝負します。こちらを全国組(ぜんこくぐみ)と勝手に名付けました。
 後半の地元B to C系と地域新電力は、エリアを限って戦います。地域組(ちいきぐみ)としましょう。後者は、エネルギーの地産地消や地元貢献を看板にすることが多いのですが、実は、全国組でも同じようなスローガンをWEBサイトなどに載せているところも少なくありません。
 2016年の電力の小売り完全自由化の際に、「電気はみな同じだから値段しか差が出ない」という声が聞かれました。これは実は正しくないのですが、現状の電気の小売り競争では差別化ポイントが少なく、値段以外のメリットを見せたい事業者が、地域への貢献をうたうケースが頻出しているのです。

 少し整理しておきます。
 数百ある新電力ですが、営業範囲(全国、限定地域)、売り(安さ、地域へのメリット)だけピックアップしてみても、その差は大きいのが現実です。名前は新電力でも、別の業態と考える方がかえってわかりやすいかもしれません。よく言われる「新電力の経営は厳しい」という言葉も、どのカテゴリーを指しているのかを合わせて考えないと意味がないのです。
 すでに新電力事業を行っているところは、自分たちがどのカテゴリーにいて、今後、どう進めていきたいかを考えなくてはなりません。これからの新規参入では、自分たちのスタンドポイントを見極めて、どんな新電力を目指すかを精査すべきです。

 今後は、新電力が行うビジネスの範囲はもっと多岐にわたり、ややこしくなります。
 全国規模で値段の勝負をしていく全国組の主流は、さらなる規模を目指して電気を売るビジネスを加速させる方向です。一方、地域組のうち特に地域新電力は、電気を売るだけのビジネスから一定の距離を置く方向に進むでしょう。小売電気事業者が電気を売らないのかと不思議がられるかもしれませんが、売らないのではありません。地域への付加価値を拡大するための様々なビジネス形態へと転換を進めることになるということです。というより、そうしていかないと先が見えないと言った方が良いでしょう。

 そこでのキイワードは、『再生エネの利活用』です。分散型の再生エネと地域の親和性は言うまでもありません。また、地域の価値を高める効果(脱炭素表明、RE100 のサプライチェーン参加など)は、地元の自治体や民間企業を活性化させる力を持っています。
 地域新電力は、再生エネの利活用で地域とコラボし、自らのビジネスも拡大していく武器を唯一持っていると私は確信しています。

 まだまだ、説明しきれないので、今後もこのコラムでじっくりお話ししていきます。新生の第二回のコラムは、このあたりの“さわり”までということで。

以上

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