2022.7.28
第四十八回 脱炭素にじわりと動き出した地域の金融機関
日本再生可能エネルギー総合研究所 北村
脱炭素関連の記事を追っていくと、地域の金融機関の名前が最近よく登場することに気づきます。地元の地銀さんや信用金庫さんが、カーボンニュートラルに取り組むニュースが、少しずつですが増えているのです。
脱炭素の機運が地域にも浸透し始めて地域の企業や自治体が取り組みを進め、そのサポートの役割を地域の金融機関が担おうとしていることが背景にあるようです。
規模の大小は関係なく、カーボンニュートラルを展開しない企業は競争力を失い、市場から追い出されるリスクが現実のものになろうとしています。同様に自治体の将来も脱炭素の進展と無関係でいられなくなっています。
地域が廃(すた)れれば、地域内の経済で成り立つ金融機関の未来もないと考えるのは当然でしょう。融資している地元の会社などの脱炭素化を助けることは、地域の金融機関の将来にも直結するというわけなのです。
具体的に地域の金融機関がどんなことをしているのか、見てみましょう。
大きなジャンルとして、金融自らが会社として脱炭素を進めるということがありますが、ここでは融資先や投資先に対する金融機関からの取り組みをピックアップします。
まず、今年の1月、愛媛の地銀、伊予銀行が環境への負荷が高い事業への投融資の方針を発表しました。例えば、温暖化ガスの排出量が多い石炭火力発電所の新設の資金調達には応じないということで、金融機関としての基準を明確にしています。第一生命保険のような大規模な機関投資家の例はよく聞きますが、このように、地銀でも融資先などへ“脱炭素圧力”を示すことは珍しくなくなりました。
目を引くのは、5月、山陰合同銀行が銀行として初めて発電事業への参入を発表したことでしょう。新しい会社を作って、耕作放棄地などで行う太陽光発電所を運営管理するというものでした。計画中の太陽光発電所は合わせて14MWの規模で、鳥取県米子市と境港市の公共施設およそ600カ所に電気を送るとしています。この2つの都市が進めるゼロカーボンシティ構想に対して、再生エネ電力を供給することで実際に支援することを目指しており、より実質的なサポートと言えます。この発表に沿って、つい先日、発電と電力供給事業を行う子会社の「ごうぎんエナジー」が設立されました。
これまで、金融機関が直接、再生エネを創りだす事業を主体的に行うのは聞いたことが無かったと思います。それは、銀行法で縛られていたからです。ところが、昨年、法律が改正され、地域再生にかかわるものは、「銀行以外の業務」でも子会社で参入が認められるようになったのです。山陰合同銀行は、発電に関わる最初の例となりました。
同じ月に、茨城県の常陽銀行が発電事業などのための「常陽グリーンエナジー」の設立を発表しました。7月中旬には、長野の八十二銀行も、同様の発電事業と地域商社機能を兼ね備えた「八十二 Link Nagano㈱」を作り、次々と後に続いています。
もう一つの動きは、取引先企業の脱炭素経営の支援です。特に温暖化ガスの排出量の算定を簡便に可能とする技術の紹介が目立っています。地銀などが、スタートアップ会社と業務提携して、取引先企業の排出量の可視化や削減提案、報告資料の作成など支援するというのが一般的です。具体例として、鹿児島銀行や関西の、関西みらい銀行とみなと銀行、大阪シティ信金と京都中央信用金庫などがサービスを始めています。
これらの動きの背景には、地方金融機関そのものが厳しい経営環境にあることがあります。脱炭素というトレンドをどう地域の金融の活性化と結び付け、新しい資金需要を生み出せるかが、自らの生き残りを含めた狙いとなっているのです。銀行法の改正は、それを後押ししています。
改正以前から、積極的な取り組みを行っている地銀もあります。
秋田の北都銀行は、預金等残高、貸出金残高共に県内比率が9割を超える地域に寄り添った地銀として有名です。中でも「地方創生 北都イノベーション戦略」の一番目に、再生可能エネルギーを軸とした新しい産業の育成、を掲げて、再生エネ+脱炭素の取り組みを続けています。
具体的には、自らが出資した発電事業会社「ウェンティ・ジャパン」による秋田県内の大規模な風力発電事業や木質バイオマス発電事業への関与などです。今年になってからは、市民ファンドと組んで市民風車のプロジェクトも発表しています。
北都銀行の再生エネ事業へのプロジェクトファイナンスは突出していて、再生エネ向けの融資残高は600億円以上、全体の14%となっています。
長く地域の疲弊が続く中、脱炭素や再生エネ拡大を地域活性化の起爆剤にするという考えが、自治体や金融機関を含む地元企業の共通のものとして浮かび上がってきました。ファイナンスは、特に実現に向けたベースとなるものです。今後、地域の金融機関とのコラボや協力体制作りが、地域再生、地方創生の柱の一つとなるのは確実で、ここにきてその芽がはっきりと現れてきたと言えるでしょう。
以上