2022.8.29

第四十九回 欧州のエネルギー高騰の実際

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 最近、物価高、インフレが人々の生活を苦しめていると残念なニュースで持ち切りです。ロシアのウクライナ侵略が食糧や天然ガスなどの化石燃料不足を招いていることが原因の一つという解説を耳にしたことがあるでしょう。
 このコラムの趣旨から言えば、エネルギー費の焦点となります。電気代は、東京電力管内でこの1年間で3割以上も上昇しています。では、場所的に近く影響が大きそうなヨーロッパの高騰はどこまでのものなのか、ドイツの家庭の電気代など、具体的な実態について今回はお話ししたいと思います。

 ロシアとの関係や経済規模を考えると、欧州では最も影響を受けている国の一つがドイツといってよいでしょう。特に、ロシアからの天然ガス、それも直接のガスパイプラインでの輸入が、昨年の実績でドイツ国内需要の55%を占めていたことが、今、ドイツを苦しめています。
実は、メインのパイプライン「ノルドストリーム1」を通した天然ガスの輸入量は、今、昨年の5分の1になっています。これはロシアによって供給が減らされているからです。一方、欧州全体としては、ロシアに対する制裁的な行動として、原油や石炭の輸入をゼロにする方向で、削減を進めています。ドイツでも原油や石炭は年内にゼロに向かう方向ですが、代替が簡単には見つからず、天然ガスのロシア依存率はやっと26%まで減ったところです。
 これらの結果、ドイツ国内のエネルギー費に大きな影響が出ています。

(ドイツ国内のエネルギー費の推移 出典:Die Zeit Online、8月26日時点)
(ドイツ国内のエネルギー費の推移 出典:Die Zeit Online、8月26日時点)

 上図は、2月末のウクライナ侵略の開始日を基準(=100)にして、その後の価格の推移をグラフ化しています。
 紫色の線が天然ガスの値段(Gas)、水色が電気代(Strom)、ピンクはガソリン代(ディーゼルとスーパー)です。天然ガスは3月にいったん7割以上値上がりし、電気代も3割上昇しました。その後、やや落ち着いて、共に値下がりしたのですが、戦争が長期化し、ロシアが天然ガスの供給をカットするなどがあって、8月から急激に上がってきています。8月25日時点で、天然ガスはおよそ2.7倍、電気代は1.4倍強です。マスコミも含めて勘違いがあるのですが、ドイツでは発電に使う天然ガスは全体の14%にすぎません。圧倒的に家庭用の熱利用と工業利用です。しかし、天然ガスを少しでも節約する動きの中で、電気利用の天然ガスも減らされて、例えば石炭などへ代替されています。

 残念ながら、これらの化石燃料の市場高騰や各種の調達条件、価格が急激に改善される可能性はあまりありません。ドイツのマスコミやWEBなどでは、9月以降にさらに電気料金などが上がると予測しています。また、目の前で電力の卸売スポット市場の価格が恐ろしく上がっていて、一日平均が各国(英、仏、独、伊など)で日本円換算80円以上をつけています。

(出典:BDEW)

 上のグラフは、ドイツの家庭用の電力料金の推移(2012年~22年7月、出典:BDEW)です。単位は1kWhあたりのユーロセント(現在1.4円弱)です。ドイツは、欧州で2番目に電気代が高いので有名で、もともと日本より割高です。昨年2021年で43円強、それがこの7月(一番上のグラフ)に50円を超えてしまいました。

 グラフの色は、料金の構成要素を示しています。左から二番目の水色は送電線を使う託送料で、それより右のほとんどは、税金や賦課金です。ドイツの電気代は税金などの割合が大変高くなっています。
 一番左のオレンジ色が、いわゆる原価で、調達費と小売り会社の販管費です。見てわかるように、2021年の8ユーロセント弱が、今年7月の18セント以上と2倍をはるかに超えているのです。いかに発電コストが上がったかがわかります。
 2021年のグラフと2022年7月のグラフを見比べると気づくことがあります。21年まであった緑色の部分がなくなっているのです。上から二番目のグラフでは、3.72ユーロセントでおよそ5円です。これは、日本で言う、FITの賦課金に当たります。実は、ドイツ政府は、電気代の高騰対策として、7月1日から賦課金を無くしました。そこまで頑張っても、ドイツの家庭料金は50円以上なのです。さらに9月以降の値上がりもほぼ確定です。

 ロシアの化石燃料依存からの脱却は、長い目で見れば、これらの高騰対策としても、また脱炭素の実現の観点からも必要です。そのためには、欧州のほぼすべての国が再生可能エネルギーの更なる拡大が必須だと認識していて、そのような方針を打ち出しています。
 ただし、それは2、3年という短期ではとても実現できないため、一時的に古い石炭火力発電を再び動かしたり、原発の運転を延長したり、なども検討しているのです。
 最後にもうひとつ、グラフを見てください。

(2022年のフランス原発の発電量推移 出典:Fraunhofer ISE)
(2022年のフランス原発の発電量推移 出典:Fraunhofer ISE)

 原発大国のフランスには50を超える原子力発電所がありますが、今年に入ってその稼働率はどんどん下がっています。発電実績は、4割程度まで落ち込んでいます。いくつか理由が挙げられています。熱波の影響で川の水が減り冷却水が不足していること、コロナ禍でメンテナンス作業が滞ったこと、などです。大きな要素は、長期の延長運転の弊害だとも言われています。不具合が頻繁に発生しているといいます。例えば、イギリスでは、無理な延長をせず、2030年までに28基の原発を止めることが決まっているようです。

 欧州の高騰の状況は、日本の現状の数字を超えています。そして、さらに悪化する可能性もあります。悲観論ばかりを書くつもりはありませんが、今後は日本にも同様の影響があると思われます。再生エネの拡大は必須ですが、しばらくは値上がりに耐えなければならない時期が続くかもしれません。

以上

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