2022.4.7
第四十三回 重要さを増す交通と熱の転換
日本再生可能エネルギー総合研究所 北村
4月に入りました。
世界的なエネルギー高騰が続いています。日本でも同様です。そして年度が替わり、新電力の撤退や値上げのニュースが目白押しです。特に新興の比較的大きな新電力が自ら事業方針の変更を発表するケースが増えているのが特徴です。
地域新電力では高圧を中心としてきたところは厳しく、また、低圧中心の会社でも契約数が大きいと持ちこたえられなくなっています。
前にも書いたように、ウクライナ危機の本格的な影響はこれからです。
今回は、日本全体の今後のエネルギー対応について、少し書いてみます。
世界ではエネルギーに関する脱ロシアが加速しています。ロシア軍のウクライナでの一般市民の大量虐殺(ジェノサイド)が次々と明るみに出て、さすがのドイツもロシアからのエネルギー輸入を禁じるための最大限の努力を始めています。
何度も書いているように、最も効果的な方法は再生エネの拡大ですが、一定の時間がかかるため、別の国からの融通などが短期的な策も必要です。といっても、見つけてきた別の国にリスクが無いわけではありません。コスト高も含むカントリーリスクは消えないので、やはり根源的な解決策を直実に進めておく必要があるのです。
天然ガスは、ドイツでは発電に使っている割合が14%程度なので、もっと大きな需要がある家庭用の熱などの再生エネなどへの転換が急務となります。また、原油を見れば、交通燃料であるガソリンをどうにかしないと先へ進みません。
つまり、熱と交通エネルギーをどうハンドリングできるかが真に喫緊の課題なのです。
日本でも全く同じです。
ところが、日本の政府はこの重要な課題に真剣に取り組んでいるようにはあまり見えません。
ドイツは、ロシア依存が過ぎて苦しんでいて、熱と交通に関して本気になりました。交通では、EV化がこの1,2年で驚くほど進んでいます。昨年、年間のBEV(バッテリーEV、純粋なEV)とPHEV(プラグインハイブリッド)の新車に占める割合が二けたになりました。今年は、3割あたりまで増やしています。熱は、まだまだこれからですが、天然ガスの脱ロシアには、原発よりも建物の断熱や再生エネ転換が効果的だと判断をしています。
日本ははっきり言ってお粗末です。
EVに関しては、盟主のトヨタに遠慮しているのか、補助やインフラ整備、PRなどが生ぬるい気がします。結果として、日本でのEV導入率は1%未満です。一方、断熱などで欧米水準からはるかに劣る日本の建築物の改善は必須のはずです。しかし、重要法案の「建築物省エネ法改正案」は、今国会への提出が見送られる見込みです。「脱炭素に逆行する」と日経新聞が書きましたが、これは脱ロシアなどの政治戦略的な方針、つまりエネルギー安保にも反しています。
電気、交通、熱という3大最終エネルギー消費のうち、最も大きいのが熱です。この消費量をまずは減らすことが一番です。熱がダダ洩れの住居など建築物をそのままにしておいて、再生エネ転換しても無駄に捨てる部分が増えるばかりです。
EVの拡大は、単なる脱ガソリンの効果だけではありません。搭載するバッテリーの蓄電池としての有効利用は、大きなメリットを生み出します。例えば、太陽光発電などの施設がどんどん増えることで問題になっている出力制御を防止できます。電気をバッテリーに貯めれば、せっかく作った再生エネ電力を止めたり捨てたりすることなく使えるのです。それも、一番使いたい時間にピークシフトできます。
今、天気の良い日のJEPXの昼間のスポット価格は、長い時間0.01円/kWhと格安です。ところが、太陽が出る前や沈んだ後は、二けた円と跳ね上がり、その数千倍になることさえ珍しくありません。つまり、0.01円で仕入れ(EVの蓄電池に貯め)、太陽が沈んだ後に売れば(蓄電池から放出)もうかりますし、ピークを平準化でき、再生エネ電力が無駄なく使えるのです。一台のEV車の蓄電池のトータルでの平均利用率は、1割程度といわれています。残りの9割を使えば、高い高いと言われる単独の定置型蓄電池を使うよりずっと安く(ある意味でただ)、効率的に使えることになります。一石二鳥、にも三鳥にもなるでしょう。
繰り返しますが、日本の取り組みは進んでいません。これは、危機感の無さと分析力、将来的な見通しが欠けていることの証左でしょう。
現在置かれているエネルギーの危機的な状況は、ひとまかせでは脱することはできません。地域も全面的な協力をしながら乗り越えていかなければ、日本の将来はありません。
以上