2021.7.26
第二十六回 ドイツを振り返って思うこと
日本再生可能エネルギー総合研究所 北村
あるところからの依頼で、ドイツの再生エネがなぜ順調に拡大したかについて原稿を書きました。これまで、ドイツの再生エネの現状がどうなっているか、政策がどうなのか、日本とどう違うかなど数多くのことを原稿にしてきました。しかし、全体として「ドイツがなぜ再生エネ先進国になって、それを維持していられるのか」に、直接回答したことはなかったかもしれません。
今回は、他の執筆をきっかけにしてドイツについて考えたことを書いてみます。
まず、思いつくのがFIT制度です。ドイツでは2000年にEEG(ドイツのFIT版)をスタートさせ20年間で、再生エネ電力の割合をほぼ半分にまで拡大させました。また、政府は脱原発を決め、来年の12月31日までにはすべての原発が停止します。石炭火力発電は2038年までにやめることも決めました。
政府が重要な政策を打ち出し、中には覚悟を決めて撤退を発表する。これは国が選択をするエネルギー政策には絶対に必要なものでしょう。ただし、原発の件はともかく、FIT制度などは日本でも同様に取り入れています。
日本と決定的に違うものは何かと考えてみると、ドイツと日本では地域での取り組みが大きく違うことに気づきました。
何度かお話したこともありますが、私はしばらくドイツに住んでいたこともあり、コロナ禍の前には年に何回かドイツを訪れていました。地方に行くとエネルギーに関して様々な取り組みが見られます。風車を町や市民がお金を出し合って作っていたり、バイオガスのプラントを一家で経営したりしているケースはごく普通です。
大きな都市では見つけにくいのではとお思いかもしれませんが、私が住んでいたドイツ南部の工業都市アウグスブルクにもシュタットヴェルケがあって、私が使っていた電気や水道はそこと契約をしていました。また、ほぼ毎日利用したバスやトラムもシュタットヴェルケの運営です。細かいですが、住んでいたアパートの窓枠はすべて木製で熱が逃げにくくなっています。そして、家具系のごみが出されても回収される前に大概誰かが持って行ってしまいます。ドイツ人は中古品を使うのに抵抗がないどころか、積極的です。ちなみに住んでいる間私が使っていたテレビは、近くの中古品屋で買い、町を離れるときに再びそこに買い取ってもらいました。
私の小さな経験の中に、ドイツが再生エネ先進国の地位に長く居続けられる多くの要素が含まれていることに気づきます。
まず、シュタットヴェルケの存在です。地域の中で作られた(ガスは遠くから運ぶしかありませんが)エネルギーを地域で消費する、いわゆる地産地消のキイとなっています。発電にかかわっているシュタットヴェルケも多く、一気通貫でエネルギー経済を地域内で循環させることができます。エネルギーで生み出された利益を交通などの市民サービスに回して、市民の足を維持することも行われています。
シュタットヴェルケを持てない小さな自治体では、町や村、市民などが自ら発電などエネルギー施設を所有して、電気などを生み出しています。ドイツでは、再生エネ発電施設(発電能力ベース)の所有者は、およそ30%が個人です。また、農家が10%持っているので合計4割は市民所有と言ってよいでしょう。
私が懇意にしている人口2千5百程の小さな町では、消費する電力の8倍以上を自治体や個人が持つ再生エネ施設で作り出しています。重要なのは、施設は100%地元(自治体+個人)所有だということです。つまり、そこから得られる利益は余すことなく、地域に戻ってくるのです。
ひとつ面白い仕組みをご紹介しておきます。エネルギー協同組合という存在です。一般の市民が出資金を出し合い、金融機関の融資を受けながら再生エネ施設を自ら所有して運営するものです。ドイツでは、2000年あたりから増え始めて、現在は全国に900以上にまで増えているようです。
中部の小さな町で地域の熱供給を行っている協同組合を二度ほど訪れたことがあります。出資金は数万円、実際に温水による熱供給が家に接続された時点で40万円強のお金を払います。木質チップを使うプラントはおよそ2億円、供給のためのパイプをめぐらすための費用が5億円で、これをエネルギー協同組合がすべてハンドリングしました。現在、2百数十の家屋が参加しています。この協同組合の仕組みはドイツではかなり前から行われているのですが、日本の協同組合とはかなり違うため、残念ながら同じことは日本ではできません。
ドイツが、再生エネ先進国であり続けていられるのは、政府、中央の強い覚悟と政策決定だけではありません。地域からの様々な取り組みと地元の関与が重要だと再度思い直しました。
温対法の改正や地域脱炭素ロードマップでは、地域主導の脱炭素がはっきりと掲げられています。やっとそこに気が付いたか、という感じです。中央と地域の両輪がそろって初めて、再生エネの大量導入、脱炭素という困難な課題の解決に結び付くことを肝に銘じていきたいと考えています。
以上