2021.4.16
第二十回 再生エネ電力中心主義
日本再生可能エネルギー総合研究所 北村
前回のコラムで2030年時点での再生エネ電力の割合を最低でも40%とすべきと書きました。今回のコラムはその続きの内容です。
タイトルは、「再生エネ電力中心主義」となにかイデオロギーのような変な言葉です。こんなワードは世の中のどこにもありません。私が勝手に作ったので。
まずは、前回のコラムのニュース的なフォローから。
政府は、2030年時点の二酸化炭素削減目標を大きく変更することにしました。このコラムがWEB公開される前後には、菅首相が訪米してバイデン米新大統領と会談を行っているか、終えていることでしょう。そこでの大きな議題が温暖化対策です。さすがに2013年比マイナス26%ではみっともないということになったのです。
現状(4月14日)では、40%が現実的な限界とする経産省と野心的な45%は欲しいという環境省が綱引き状態のようです。いずれにせよこの辺りまで引き上げられることは確実で、それはそれとしてよかったと思います。
そこで、今回のテーマに戻ります。
「再生エネ電力中心主義」とは、2つの意味があります。
およそ3年前に閣議決定されたのが第5次エネルギー基本計画で、そこで初めて明示されたのが「再生エネ主力電源化」でした。電気の中で最も大きい割合を再生エネで創りだそうといったスローガン的なものでした。
マスコミも含めて、そんなことできるのかいな、とかなり懐疑的な声がその時は聞こえたものでした。ところが、昨年10月末の政府のカーボンニュートラル宣言でガラッと様相が変わってきました。電力全体に占める割合が一番というレベルではなく、5割、6割を再生エネ電力で賄うという設定が、当たり前と思われるようになったのです。
2030年時点での二酸化炭素の40~45%削減には、当然ながら再生エネ電源の大幅な拡大が必要です。つまり、再生エネ電源が中心で後の電力は補完というコンセプトです。主力電源化をさらに強化したものが、「再生エネ電力中心」というのが私の解釈です。
と、書いているうちに、また別のニュースが入ってきました。
第6次エネルギー基本計画を策定している資源エネルギー庁が、2030年の再生エネ電力の割合を30%超とする方針を決めたようです。現状での目標が22~24%ですから、大幅な拡大という見出しなのでしょうが、前回と今回のコラムを透かして見れば、まだまだ足りないでしょうね。
この30%でさえも実現に疑問とする委員が少なからずいるようです。例えば、太陽光発電の導入を見ても、確かに、最近は急激に細くなっていて、年間1GWにも満たないというのが現実のようです。各種の刺激策を取らないとこの30%でさえ難しいという意見は間違っておらず、抜本的な対策が必要なのは間違いありません。
もうひとつの「再生エネ電力中心主義」の意味に移りましょう。
これは、政府のロードマップで示されている「電化」のことです。
簡単に言うと、電気以外の熱や交通エネルギー部門でも積極的に電気によって作り出すように転換しようとするものです。もちろんそこで使う電気はCO2フリーでなくてはなりません。別の見方をすると、ここでも何度か取り上げている、「セクターカップリング」という考え方です。有り余る電気を熱や交通セクターでも使う仕組みです。
現状では、熱は寒冷地を中心に灯油、重油などの化石燃料で作り出し、自動車は9割以上がガソリンかディーゼルです。ご存知のように、ガソリン車から急速にEVへのシフトが進みそうです。交通部門の電化の道筋ははっきりしてきました。
熱はエアコンが最も簡単そうですが、コストの問題が残ります。ドイツなど欧州で進む、バイオマスなどを使った地域熱供給はシステム導入に時間がかかります。「電気⇒熱」のヒートポンプはコストがべらぼうに高く、それこそあふれ余った再生エネ電力が無いと現実的ではありません。また、日本が決定的に遅れている一般家屋など建築物の断熱をまずやらないと、せっかく作った熱が駄々洩れしてしまいます。
それでも、一定割合の電化に頼らないと目標には到達しないというのが、共通認識です。このように、再生エネ電力は主力から中心へ、そして圧倒的な存在感で脱炭素の主役になっていくのです。
エネ庁の30%を巡る議論が現実的か非現実的かではなく、石にかじりついてもそんな目標を軽く超えていかないと、日本の将来はありません。
地域にある再生エネ資源をどう効率的、効果的に早く利用していくか、地域を一番よく知る地元からの発案、発信が求められます。
以上