2021.4.5

第十九回 脱炭素実現と再生エネ電力の拡大

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 2050年までにカーボンニュートラルを目指す日本政府の目標設定が揺れ動いています。この一行目に書いたように、最終的な目標年は2050年ですが、今、世界で取り上げられているポイントとなる年は、2030年です。この年に何%のCO2削減ができているかが、政府に限らず企業などにとっても重要になっています。
 例えば、世界の名だたる企業で作る「RE100」では、加盟する300社弱の100%目標達成年の平均はすでに2030年を下回って2028年となりました。RE100は電力の脱炭素化を目指す集まりなので、基準が違うのですが、いずれにせよ目標を達成する年の前倒しが当たり前になってきています。

 戻って日本の2030年の二酸化炭素の削減目標は、2013年度に比べてマイナス26%と設定されています。これでは生温い、低すぎるという声が世界からも聞こえてきていて、日本政府としては、今月中旬の菅首相の訪米までに削減目標の拡大を検討し、6月には決定したい考えだと言われています。
 日本は他の国に比べて電力使用から発生する二酸化炭素の割合が高いので、再生エネ電力の割合を高める必要がさらに出てきます。現在の2030年の再生エネ電力の割合目標は22~24%で、これは、「第5次エネルギー基本計画」で定められています。今ちょうど、第6次の計画を策定する議論が行われており、当然ながら拡大の方向です。
 2020年、昨年の再生エネ電力の割合は、新型コロナの経済の停滞の影響もあって、20%を少し超えました。それを考慮しても残り9年弱の時点での現在の目標は誰が考えても低すぎます。経済同友会が40%を提言しているように、経済界からも大きな上積みを求める声があるくらいです。

 ご存知のように、ドイツではすでに再生エネが電力のおよそ半分まで拡大しています。この10年間で再生エネの発電量は倍になりました。10年前といえば2011年、原発の事故が起きた年です。その時に再生エネ発電の倍以上あった石炭発電は発電量が激減しました。3年前に再生エネ発電とほぼ同じとなり、昨年ではすでに再生エネの半分です。
 ドイツ政府は、脱原発、脱石炭を政策として決定し、ぶれずに実現に向かって進んでいます。来年の12月末までにすべての原発が発電を止めます。また、石炭発電は2038年までに終わらせる予定です。原発の廃棄については、裁判で負けたこともありますが、発電事業者に対しておよそ3000億円を超える多額の補償金を払います。また、石炭産業からの転換のために、ドイツ国内の3つの州に対しおよそ5兆円の資金を投じて、産業構造や交通インフラの改革、失業対策を行います。石炭(特に質の悪い褐炭)はドイツ国内で産出されるために、脱石炭は経済的にも身を切る施策なのです。

 ひるがえって日本はどうでしょうか。
 脱炭素実現については、各国が多額の資金をつぎ込む計画を発表しています。どの観点から見るかで比較は簡単ではありませんが、いずれにせよ数字でも日本の投資額は見劣りするのが現実です。例えば、今後、技術開発に費やすお金として、アメリカは4年間でおよそ200兆円、EUは10年間で官民合わせておよそ120兆円を計上したとされています。一方日本では、2兆円の基金を立ち上げる計画で、規模が2桁違っています。
 実は、日本のRD&D、研究開発に回すお金は、GDP比では世界3番目です。対象別にみると、1位は36%の原子力で、再生エネは3位、11%にすぎません(2019年統計、IEA)。BloombergNEFがまとめた最新の数字では、世界のエネルギーシフトに向けた投資の6割は再生エネ関連です。日本は大丈夫か、と心配になります。

 脱炭素の実現のためには、2030年で少なくとも4割以上の再生エネ電力の導入が必須でしょう。現実化するには、様々な制度に加えて、もちろん、費用もその中に含まれます。いつまでも中途半端な施策を取っている余裕は日本にはありません。数字の設定は、鉛筆なめなめでもできますが、実現には多くの汗が必要です。再生エネは分散型ですから、一気に大型のものを作ることはできず、地域地域で比較的小規模の施設を積み上げるしかありません。その前には、徹底的な省エネやエネルギーの効率化が欠かせません。地味な努力がそこにはあります。

 脱炭素という目的を逃れることのできる地域も企業もありません。そのための再生エネ拡大もすべての地域、企業の課題なのです。地域新電力もその課題を避けては通れません。その役割を考え、自らがどう課題に立ち向かって地域に貢献できるかが地域新電力の存在価値に他ならないのです。

以上

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