2021.5.10

第二十一回 脱炭素とSDGsの密接な関係

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 新型コロナの収束が見えない中、一方で、積極的なトレンドを示しているのが「脱炭素」と「SDGs」です。
 昨年の政府のカーボンニュートラル宣言以来、手のひらを返したように脱炭素コールが繰り返されています。一方で、SDGs(持続可能な開発目標)はスタートとなった2015年の国連総会から5年以上が経過していますが、TBSが全社を挙げて番組でも取り組む例など、広がりを増し定着してきています。
 共に重要な取り組みであることには違いなく、この傾向は明らかにポジティブです。ところが、天邪鬼な私は現状に何か違和感を覚えるのです。少し引いて考えると上滑りという気さえします。今回のコラムは、そんな話をしたいと思います。

 脱炭素は、日本が国際的に約束し、さらに世界の金融機関が脱炭素に取り組まない企業への融資を制限する動きに出て、企業の将来を左右する課題になりました。また、SDGsでは、どのゴールに積極的に関わっていくか設定をする自治体や民間が珍しくないほどの勢いです。
 最もずれを感じるのは、脱炭素もSDGsもそれ自体が目的化されているように映ることです。カーボンニュートラルをいつまでにどうやって実現させるか、また、17あるゴールのどれをピックアップし、どう取り組んでいくかそちらにばかり気を取られて本来の目的が薄らいでいるように思うのです。
 その結果、場合によっては、元々の目的と矛盾した手段が取られたり、かえって逆効果になったりすることさえ危惧されます。

 ここでもう一度原点に戻ってみましょう。
 実は、脱炭素とSDGsの本来の目的は多くの共通点を持っています。
 共通点と書くと、こう考える人もいるでしょう。ゴール7の「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」、ゴール13の「気候変動に具体的な対策を」がシンボリックな例だと。
 もちろん、それは間違いではありません。
 しかし、私が言いたいのは、脱炭素とSDGsが最終的に目指すもののことです。
 
 SDGsの本質はいわゆるグローバル目標にあり、「貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す」ものです。そして、最も重要なルールが、『誰ひとり取り残さないこと』です。つまり地球に暮らす人たち全員が平和と豊かさを受けることが目的です。
 地球上のどんな場所であってもそこで暮らす人たち一人一人が必ず平和と豊かさの中で生活できないとSDGsは実現したことになりません。ですから、個別の企業が17のうちどのゴールの実現に取り組むかという宣言はあり得ても、それぞれの地域(広さは様々であっても)で、ゴールが一つでも欠けることは想定されず、17全てが達成されなければなりません。大変困難なことですが、みんなでそれを目指すことを決めたのです。

 脱炭素の目指すのは基本的に温暖化の防止です。
 いまや気候危機と言われるまでに膨らんだリスクをあらゆる手段で防ごうという取り組みです。温暖化は、地球上に暮らすすべての人に降りかかる大きな問題です。人類がもたらしてきた環境への過大な負荷や偏ったエネルギーの使い方などの結果、人々の暮らしを根本から脅かす危険を招くまでになったと言ってよいでしょう。つまり、脱炭素のゴールは、人類の将来にわたる平和で豊かに暮らせることなのです。
これは、SDGsの目標と全く同じです。
 目的を見失った結果としての矛盾を絶対に起こしてはなりません。
 例えば、森を壊し、山を切り開いたメガソーラーは決して認められるものではありません。子供や低賃金労働者で成り立つ低価格や利益は豊かさの対極にあり、そのようなプロジェクトはすべて持続可能なものとは言えません。

もう一つ、隠れた共通点があります。
 脱炭素もSDGsも地域で解決されなければならないということです。ともに大きな目標として国際機関や政府が設定し旗を振りますが、実現はエリアの中でしかありえません。それは人が実際に生活をしているのは、それぞれの地域だからです。
 特に、脱炭素の切り札は再生エネです。分散型で地産地消を基本とし、VRE(太陽光、風力発電)のように原料を自然から無償で得る仕組みだから、SDGsにも矛盾しないのです。
 はるか離れた場所から燃料を運んできて大型の施設などで発電し、長い距離を送電するという時代は終わりました。そのプロセスでは大量のCO2を発生させることにもなります。残念ながら原発も同様です。ウランの産地で採掘しイエローケーキという生成された粉末にするまで、現地で起きる環境破壊がいかに凄まじいものであるか、そこで働く労働者の健康をどう害しているかを知れば、脱炭素にもSDGsにも合致しないことはすぐにわかります。

 もう一度原点に立ち返り、脱炭素やSDGsをどう実現していけばよいか、考え直す必要があるでしょう。ここで立ち止まることは逆に正しい解決策にたどり着く一番の近道です。
 企業も自治体も国もそして私たちも地域に足場を持ち、脱炭素やSDGsというツールをうまく利用しながら「平和で豊かな社会」を目指したいと思います。

以上

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