2022.10.27
第五十一回 エネルギー高騰に対して、今、私たちがやるべきこと
日本再生可能エネルギー総合研究所 北村
電気代やガス代の値上がりが家計に響き続けています。
日本では2割から3割の上昇で、それでもすごいアップです。しかし、欧州では平均4割になっていて、特に所得の低い階層にはある意味“致命的”な影響が想定されています。
(欧州のインフレ率、2022年9月 出典;Ember)
残念ながら、世界的な状況から見て、エネルギー費は今後大きく下がる要素はあまりありません。予測は大変難しいのですが、少なくとも2~3年くらいは、日本でも今のような状況が続いてもおかしくないと思います(ぎりぎりのニュアンスです)。
国会も始まっていて、政府の電気代やガス代の高騰に対する一般家庭や企業など需要家への支援策がわかってきました。電気については、来年4月に想定されている一家庭当たり2000円から3000円の値上がり分に対する補填(ほてん)で、各小売電気事業者を通じて行うようです。なぜか、「請求書の燃料調整費の欄に示す」ことだけが、やけにはっきりしています。
これに対して、すでにSNSなどでは、「たった2000円ぽっち」などの反応が出ています。そういっても、これを全家庭に対して行うと年間で3兆円近くになるでしょう。また、制度設計側の政治家からは、「電気だけはおかしい、ガスだって上がっている」という意見があり、それに対して「都市ガスも支援」という流れになったのですが、今度は、「低所得者層が多い地方はLPガスが主だ」となって、あれもこれも、で膨らむ一方です。
すでに進行しているガソリン補助が累積で3兆円、電気、ガスを合わせると、10兆円規模になる可能性があります。この巨額補助の原資は、日本の場合、税金です。欧州では、エネルギー高騰で、逆に過剰利益を出したエネルギー関連企業や発電事業者から拠出させるとしていて、財源対策も一応あります。しかし、日本ではそんな議論は全くありません。結局、国民が自分で出して自分に戻すという“行ってこい”になるだけです。ただし、そこで使ってしまうと、他に必要なものが削られることになりかねません。これが莫大な借金を抱える日本が取るべきやり方なのでしょうか。
エネルギー費の高騰は家計に直接打撃があるのは確かです。特に所得の低い層へのインパクトの方が強くなります。ですから、これだけ価格が上がってくると、支援は必要です。ところが、日本がやっている支援は、ガソリンでも電気でも広く、すべての需要家が対象です。その結果、あまり困らない家庭などにも補助が来ることになります。
また、通常は、モノやサービスの価格が上がると、不要なモノを買わなかったり使わなかったりするのですが、そこを補助すると節約の動機が湧きません。エネルギーでは、使わないことが省エネにつながることから、脱炭素への後押しになるのです。つまり、結果として、この対策が脱炭素化に反するということです。問題はそこにもあります、
エネルギー費補助を、所得の比較的低い層やエネルギー費の割合が非常に高く、価格などに転嫁しにくい企業に限ることです。財源が税金しかなければ、補助は続かないので、良い意味で支援先を“選別”すべきです。
さて、それでは私たち個人はどうすることが良いのでしょうか。
目の前のことでは、何より、節電、節ガスなどの省エネです。欧州委員会が先日決めた「高騰対策」も一番目は、節電でした。日本では、この夏に節電要請が出て、騒がれていた危機を乗り越えました。この冬も再度要請されると思われますが、日本はまじめに対応する人が多いので、ペナルティや逆にメリット(ポイントなど)が無くても、けっこう効果があります。毎日の生活を点検すれば、まだまだたくさん節約するところが見つかります。エネルギーといっても、電気やガス台のスイッチを扱うことだけではありません。脱炭素という目的を考えれば、日用品を大事に使ったり、簡単に捨てないで長く使ったりすることも同様に重要です。モノを生産するには必ずエネルギーが必要ですから、そこでも脱炭素の道を開くことができます。
また、エネルギー効率という観点も大事です。省エネ型やエネルギーの効率が良いものを使うこと、また、買い替えも選択肢にあります。なんだか地味で、せせこましいように思えても、必ず役に立つのです。ある意味でそういう行動をまとめたものが、SDGsだったりするので、“今風”でもあります。
あとは、やはりエネルギーの大きなシフト、チェンジでしょう。
欧州各国をはじめほとんどの国が、脱炭素化の基本として、そして、ロシアのウクライナ侵略をきっかけとした高騰対応で、加速しなければならないと一致しているのが、再生エネの拡大です。限界費用ゼロといって、基本的に燃料費がタダのエネルギーが、太陽光や風力発電を中心とした再生エネです。これを限りなく増やして、交通や熱にも利用を広げることが、化石燃料などの呪縛から解き放つために必要です。
(ネットゼロに向けて2030年に必要な再生エネとこれまでの導入値 出典:IEA)
欧州は今、ロシア依存から抜け出だすため、そして、温暖化がもたらす災害からの脱却のために、脱炭素化に注力しています。日本では、私の立場で言えば、地域の活性化に結び付けることにもなって、ダブル、トリプルの効果が期待できます。前述した、省エネやエネルギー効率化、そして、SDGs実現も、個人や地域からしか達成できないものです。また、それが地域を元気することにつながるはずです。
遠い天然ガスなど化石燃料の生産などには、全く手も出せませんが、私たちができることは、今、自分たちの周りに山ほどあります。ぜひそこを忘れないでください。
以上