2022.10.3
第五十回 エネルギー問題の解決策
日本再生可能エネルギー総合研究所 北村
何でもかんでも値段が上がり、スーパーで買い物をしていても、あきらめが先に立って、逆にマヒしてきているような気さえします。実感では、1割高をはるかに超えている気がします。電気代もガス代もすでにそれ以上に上がっているのですが、口座引き落としであったり、一定期間の契約内だったりで、気づきにくい部分もあります。私のマンションは高圧の一括受電で、高騰の影響がまだ来ていないように見えます。ただし、更新時期がくれば、驚くほどの値上げになる可能性が高いです。
前のコラムに書いたように、欧州は熱波による水力発電への影響や不具合が続く原発の発電不振もあって、日本を超える激しい光熱費の高騰に見舞われています。イギリスやドイツでは、このまま何もしないと来年の家庭の光熱費が年間で軽く100万円を超える事態が迫っています。これに対して、イギリス政府は25兆円という財源を用意して、支払いを半分に抑える政策打ち出しています。「もう払えない」という声があちこちから普通に聞こえる事態です。
日本でパラパラと欧州などのニュースを見ていると、ロシアからの天然ガスが止まり、エネルギーが高騰して大変だということは伝わってきます。ただ対応策として取り上げられるのは、ロシア以外からの化石燃料の利用を増やしたり、原発をもう一度動かしたりというわかりやすい事象の紹介が多く、脱炭素の必要性が薄まったような感覚にとらわれます。
一部正しい面もあるのですが、高騰の背景にあるのは再生エネが増えすぎたことだと強調する人たちやメディアがやたら元気です。このため、再生エネ拡大に疑念を持つ人が増えているかもしれません。日本で今年6月に電気が足りないと騒ぎになりました。その時、同じ人たちやメディアが、ここぞとばかりに再生エネが増えすぎたからと騒ぎ立てたのを覚えていると思います。
電気など私たちが使うエネルギーに起きている個別の事象への対応と長期的な対策を、ごちゃ混ぜにする傾向が日本では見られます。これは、「短期的な事柄とその手当て」と「中長期的な事象と対策」がそれぞれ整理されていないことから起きていて、広い意味での情報不足が原因です。
6月の「電力の需給ひっ迫」の最大の要因は、3月の地震で火力発電所が複数壊れて使えない状態だったことに異常な暑さが重なったものでした。火力発電所が稼働するようになって、現状ではほぼ解消しています(もちろん、他の要素もありますが、ここでは単純化しています)。ただし、長期的に見ると、再生エネの拡大で採算が合わず廃止される火力発電所が続くので、これに対応するための容量市場などの対策が進められています(対策の評価については、ここでは書きません)。一時的に、化石燃料や原発に頼ることと、将来的に再生エネが大きく増やすことは全く矛盾しません。
今回の欧州でのエネルギー費高騰は、ロシアの天然ガスが制裁などで“使えない”ことがベースにあります。ですから、短期的には、石炭やロシア以外の天然ガスに替えたり、原発の稼働を延長させたりして、手当をしようとしているのです。今、欧州員会などが取ろうとしている対策は、電力市場の一部制限などかなり過激ですが、あくまでも緊急的な短期の措置です。
この年末までの完全な脱原発を進めていたドイツが、残った3基の原発のうち2基を継続させる可能性が出てきています。「ドイツでさえ、脱原発をあきらめる」と書くマスコミなどもいて、興味深く取り上げられます。しかし、現在の提案でさえ、来年の4月まで発電できる状態を保持しておく、という一時的なリザーブの話です。ところが、そのうちの1基に故障が見つかって修理に時間がかかることがわかりました。フランスの原発の不具合と並んで、原発運転延長についての根本的な問題も起きているのです。
それでは、長期的な目的とそれに対する対応策を、欧州はどう考えているのでしょうか。
共通目標としての脱炭素は何も変わりません。今年の熱波も温暖化が原因だとされていて、気候変動の恐ろしさは身に染みてきています。脱炭素実現の基本的なツールは再生エネの拡大です。あれ、同じだと思うかもしれません。ただし、違いがあります。再生エネの大量導入をさらに早い速度で行おうとしているのです。
この夏のエネルギー危機は、水力と原子力発電の不振が拍車をかけました。そこで救いになったのが、急拡大している太陽光発電だったことは統計的にも証明されています。欧州はもともと風力発電が盛んでしたが、このところオランダや南欧のスペインやギリシャなどで太陽光発電が急伸してきています。EU27か国での今年の夏の太陽光の発電量は、昨年に比べて28%も増えました。これがなかったら、電気代はもっと悲惨になった可能性があります。
(欧州27ヵ国の太陽光発電の実績、2022年夏と2021年以前との比較 出典:Ember)
IEAや欧州のシンクタンクは、2030年に向けて、太陽光と風力発電の伸びを今の倍にすることが必要だと強く主張しています。この2つの電源は、VRE(可変的再生エネ)と呼ばれ、燃料費がいらないところが重要な特徴です。今回の高騰が、天然ガスの“不足”によるコスト高が原因なだけに、燃料費ゼロは魅力的に映るはずです。
進行形の化石燃料高騰は、いったん収まったとしても、また何がきっかけに再燃するかわかりません。特定の場所に存在し売買が必要な化石燃料の宿命です。今後は、そのような燃料を必要とせず、限界費用ゼロの再生エネである太陽光と風力発電へのシフトがさらに加速します。それは、中長期で見ればエネルギー費の低下にもつながります。実際に、今でも、太陽光や風力発電があふれるほど活動した時には、市場のスポット価格が10円以下になる時間も珍しくありません。
再生エネの拡大こそが、化石燃料からの脱却を推し進め、脱炭素へのまっすぐな道でもあるのです。
以上