2021.12.7

第三十五回 JEPXの高騰、再び

日本再生可能エネルギー総合研究所 北村

 前回の予告では、「まちづくり」の構想を描く予定でしたが、JEPXのスポット市場がまたかなりきな臭い動きを続けているので、いったんそちらに触れておくことにします。

 今回の異変は、10月に始まりました。システムプライスの平均がなんとなく10円/kWhになるとゆるゆると上がりはじめ、5日には最高値50円をつけました。その後、高値は30円から50円で平均も10円台の半ばが続きます。
 11月2日には最高値が55円と壁を抜け、中旬以降は一日平均で20円前後とさらに上昇傾向となりました。22日にはついに最高値70円、平均30円と驚きの水準になり、12月に入っても平均20円の継続です。エリアによってはひっ迫無しの最高値80円を付けたところもあります。

 前回と違い、背景にはコロナ明けの需要増による天然ガスなど化石燃料の高騰がはっきりとあります。ヨーロッパではマーケット価格が数倍になり、上限が決められているイギリスでは実際に小売事業者がいくつも倒れました。ドイツやフランスなどでも料金の値上げが行われています。オミクロン株の流行で、再び石油価格は下がる傾向もみられますが、天然ガスの値段はそれほど下がっていません。
 さて、日本です。
 まず発電側の施設に余裕はあります。今年の冬は10年に1度の寒さになる可能性があると、エネ庁などはずっと警鐘を鳴らし続けていますが、現在、いわゆる予備率に十分な余裕があります。12月でもどこでも二けたの予備率です。問題は、それなのにほぼ毎日、売り札がなくなる玉切れが起きることです。
 原因と指摘されているのは、「ブロック入札」と「限界費用入札の変更」です。一定時間を一括し金額を決めて市場に玉入れするこのシステムは合法的ですが、一般的に大きな量をまとめてしまうため、地域新電力のボリュームでは手が付けにくいものです。約定しなくても市場に売り入札したことになり、結果として玉が足りない事態を招くことになりかねません。
 また、これまで、大手の発電会社は売り入札を限界費用で行うことを自主取組として行ってきましたが、スポットの調達費用などを考慮する方式に変えると東北電力、JERA、関西電力が発表しました。大手は、およそ7割を長期契約しているため、本来であれば、在庫を中心とした価格が限界費用に近いのですが、それを変更すれば売り入札価格の上下が大きくなることが予想されます。
 また、例年の1.5倍はある在庫量を持ちながら、すでに複数の大手で、燃料が不足しかねないためとして「燃料制約」が発せられています。動く設備があるのか、在庫はあるのかないのか、それすらもはっきりせず情報公開の問題はいまだに解決していません。
 さらに、なぜか大手の小売りがJEPXから大量に買い入れているのです。
 発電容量に余裕があるのに、玉切れを起こしたり、燃料制約が起きていたり、JEPXから買い入れていたり、疑問は膨らむばかりです。
 地域新電力にとってのダメージは、高騰が始まった時期にも関係があります。10月~11月は通常は端境期としてJEPXの価格が低く安定しここで利益を貯めておくことができます。そこでの値上がりは夏や冬での影響をはるかに超えるものです。
 
 エネ庁などにヒアリングすると、今回の事態をあまり問題視しているようには見えません。それどころか、欧米並みに市場が機能するようになった、まだJEPXの方が安いのでは、とまでポジティブともいえる受け止めも聞かれます。
 ブロック入札や限界費用入札の変更などを、頭から否定するつもりはありません。実際にメリットもあり、他の国でも行われている事実もあります。しかし、最大の違いは、日本の市場が未成熟でまともに機能するベースができていないことです。市場の売り手と買い手の8割が旧一電系などの大手が握っている現実の中で、自由市場の原則をそのまま適用することが正しいのか、本当に合理的な結果をもたらすかは、これまでも何度も指摘されているものです。情報公開の遅れと合わせてここで再度記しておきます。

 多くの地域新電力では、先物や相対取引など可能なことには取り組んでいます。しかし、先物が10月時点で平均30円となり、旧一電をはじめ多くの発電側は地域新電力を相手にしていません。また、バックアップ電力まで追加などが厳しい状態です。
 発電事業者が燃料の値上がりをJEPXへの売り入札で価格転嫁することは「正常」だとされています。監督官庁は、ブロック入札や限界費用の考え方の変更などに基本的には問題はなく、今回の事態でJEPXが上がることを容認する立場のようです。
 それをそのまま納得するつもりはありませんが、その過程におかしなことがないとすれば、小売事業者が取るべき行動は、電気料金の値上げです。モノの原価が上がれば、中間、最終の事業者は、まず据え置きの努力はするとしても、最終的な解決手段としてモノを値上げするしかありません。今回は、原料が明らかに上がっていて、発電事業者がそれを使って作る製品である電気の価格に影響させることが当然とされています。JEPXの売り入札が上がれば、それをいわば転売する小売事業者が料金に反映させることも同様に当然のことです。
 発電事業者にせよ、小売事業者にせよ、元の値上がりを一方的な犠牲を払って飲み込むのはおかしなことだといってもよいでしょう。

以上

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