2021.11.30
第三十四回 『構想』で大きく変わるまちづくり①
日本再生可能エネルギー総合研究所 北村
最近は、脱炭素化の手段であったり、再生エネの拡大方法のであったり、目の前の喫緊(きっきん)の課題ばかり書いてきました。それはそれで重要なのですが、今回は、もう少し広く長い目で見たお話をしたいと思います。
テーマに掲げたように、「まちづくり」です。まあ、よく聞く言葉だなと見捨てないでください。脱炭素にしても、SDGsにしても、あくまでも手段であって、最終的な目標は温暖化防止や持続可能な地球を実現させることです。そういう意味では、みんなが幸せに長く暮らせるまちづくりこそ、このコラムを読んでもらっている一人一人にとって最大の目的となりうるのだと思います。
では、まちづくりを進めるときに最も大事なことは、なんでしょうか。それは「構想」です。どんな所ならば住みやすく長く暮らしたいまちなのか。それは、それぞれ個人や家族がどんな場所に住みたいかから始まります。
岸田首相のルーツとなる自民党の派閥「宏池会」の先達に大平正芳首相がいます。彼は、「田園都市国家構想」というまちづくりのいわばグランドデザインを提唱しました。それは、自然と調和して地方で完結できる暮らしをめざしたものでした。これは、構想の一例です。
ふと思うと、「自然との調和」と「地方での完結」は、まさに現在社会にもピタリ来る発想です。私たちが今直面しているエネルギーの課題にも置き換えることが可能です。自然エネルギーの最大限の利用は自然との調和が大前提ですし、エネルギーを地方で完結させることこそ、エネルギーの地産地消にほかなりません。エネルギーの問題は、そのまままちづくりに結び付くのです。
というより、逆なのでしょう。エネルギーを考えることは、まちづくりをどうするか、どんな地域にしたいのかをまず議論して、その答えを見出していく中でこそ必要なのです。今回から始める複数のコラムは、まちづくりの構想についてお話ししながら、再生可能エネルギーと地域新電力の役割などに切り込んでいくことがテーマです。
さて、岸田首相は、田園都市国家構想を衣替えさせた「デジタル田園都市国家構想」を重点政策として掲げました。目の付け所は悪くない気がします。ただし、議論はどちらかというと、地方創生+デジタル化といった既存の政策を寄せ集めた感があります。また、そこに振り向ける新たな予算が主目的にも見えます。これまで書いたように、重要なのは構想の方です。どんな地域を作るのか、その地域を集めた国家はどんなスタイルなのか、そこに住む住民の生活と未来がすべての構想の主役です。そこを忘れた議論にならないように、これはこれで注視していきたいと思います。
つい先日ある本を読みました。
「人口減少社会のデザイン」著者:広井良典 という本です。
日本もそうですが、世界全体として進む人口減少社会の中で、どのように地域のグランドデザインを作っていくかというものです。お気づきのように、今回から始める一連のコラムを始めるきっかけとなりました。
目から鱗(うろこ)だったのは、人口減少を単純に悪いことと考えないことでした。仮に人口が毎年減っていったとしても、人口規模が数千人から数万規模で豊かな暮らしをしている自治体が現実にたくさんあるということが随所に書かれています。例えば、ドイツやスイスなどの地方都市が具体例として、写真付きで挙がっています。それができているかできないかは、人口数ではなく、構想の違いだと示されています。私は、具体例を読み進む中で、いいまちだなあと思いましたが、なんと、バカバカしい気付きでしょうか。私は、ドイツを何度も訪れているだけでなく、実際に地方都市に住み、その素晴らしい光景を何度も目にしていたのです。
広井先生は、厚生省勤務ののち、現在、千葉大学教授を務めると同時に、京都大学のこころの未来研究センターの教授でもあります。さらに、京都大学と日立製作所で作る京大日立ラボにも関わっています。この京大日立ラボとは私も一部で一緒に研究(再生エネや地域新電力の地域経済への好影響などについて)をやっているので、広井先生とは前からつながりを持っています。
次回以降のコラムでは、広井先生の本の内容紹介も含めて書き進めていきます。そこでは私の構想もご紹介できると思います。
繰り返しますが、各地域はそれぞれのまちづくりの構想を持たなければなりません。もちろん、国レベルの力でしかなしえないものはあるでしょう。しかし、エネルギーが地域主導の時代に変わってきたように、地方でできることも少なくないはずです。そんな話の中から、地域の希望ある未来を紡ぎ出し、それを地域新電力がサポートできることを夢見たいと考えています。
以上