2021.3.25
第十八回 脱炭素の気づきにくい側面 ②熱と交通
日本再生可能エネルギー総合研究所 北村
脱炭素ばやりのこの頃です。もちろん、一過性のブームではなく、きちんとしたトレンドです。そんな中で、気づきにくい側面があると思い、前回から連続でお話をすることにしました。第一回目は、「再生エネの質」でした。二酸化炭素が発生しない再生エネであれば、何でもよいということではなく、地域や環境に負荷が少ない再生エネが求められる時代になったということを示しました。
二回目の今回は、熱と交通です。
日本では再生エネといえば、そのまま電気だと思われがちです。繰り返しているように、エネルギーの最終形は、電気以外にも熱や交通があります。一番割合が大きいのは熱で、寒冷地では5割から6割が当たり前です。電気は世界でみてもおよそ4分の1と決してメジャーではありません。一方、交通エネルギーは全体の3分の1で、中でも一番たくさん使われているのは陸上の移動手段である自動車でつまりガソリンとなります。
脱炭素=カーボンニュートラルとは、すべてを結果としてCO2フリーにすることなので、熱と交通の脱炭素化をどうするかが非常に重要になってくるのです。最終エネルギーの7割以上にあたる熱と交通の脱炭素化、それが今回のコラムの“気づきにくい一面”です。
電気は、使う時にはコンセントから流れてくる身近なものです。しかし、発電になると原発を含めてまず巨大な発電所を思い浮かべる人が多いでしょう。そういう意味では遠い存在です。ただし。再生エネ、イコール電気とすぐにつながるのは、太陽光発電などが日本でもが普及してきたことが背景にあります。
熱や交通はずっと身の回りにあるものです。確かにガソリンは遠く中東などからやっては来ますが、ガソリンスタンドや乗用車、バスなどの乗り物など、私たちが日常、それぞれの地域で手に触れることができるものが中心です。ところが、熱や交通エネルギーを再生エネでどうカバーするかという話になると、うっと詰まる人も少なくないでしょう。
とはいえ、昨年10月の政府のカーボンニュートラル宣言以来、EVの普及が脱炭素の鍵と言われ始めてきたので、交通では、やや様子は違ってきました。もちろん、EVに充電される電気は、再生エネによって作られた電気でなければ意味はありません。つまり、脱炭素は電気部門は当たり前ですが、交通部門も再生エネ電力で賄う道筋が見えてきたのです。
地域でできること、それは、EVの普及とそのEVに供給する再生エネ電力をどんどん増やすことです。
そうなると、残る熱が最も厄介になってきます。
再生エネで生み出す熱は何があるのでしょうか。すでに日本にあるのは、太陽熱です。屋根の上に載せた太陽光を使った温水の発生装置です。コストも大変安いのですが、いろいろな事情があって普及が進んでいません。もう一つ、かなり大規模な熱を発生させるものがあります。それは、木質バイオマス発電(ごみ発電もあります)などで同時に発生する熱です。日本には、5MW、10MW、さらに数十MWという木質のチップなどを燃やして発電するプラントがすでに100近くまで増えてきています。
大型の燃焼系の発電では、驚くほどの熱が生まれます。ところが、この熱はほとんど使われずにいます。熱があまりに多すぎて使いきれないのです。たまに、ごみ発電の熱利用で温水プールなどが近くに設置されるケースはあります。しかし、ごく一部を使うだけです。プールが10あろうと、20あろうと、熱は余ってしまいます。熱は、運搬が難しいので、せっかくの再生エネによる熱は捨てられることになります。もったいないことです。木の持つエネルギーのうち発電に使う分はわずか2~3割で残りは熱に変わりますが、使えていないのです。
熱を考える時に、もうひとつたいへんもったいないことがあります。
日本の建物の断熱性、保温性の問題です。最近では世界でもかなり知られるようになってきてしまいましたが、日本の一般家屋など建築物は、断熱性が非常に悪く、エアコンやストーブなどで作った暖かさや冷気を、作ったそばから建物の外に逃がしてしまいます。日本では、最新の建築基準に沿った建物は全体のわずか1割しかなく、それに適合したものでさえ、欧州の基準に届きません。特にひどいのが、アルミサッシや扉です。熱を再生エネにする前に、アルミサッシを樹脂サッシ、扉を断熱性のあるものに替える必要があります。
巨大な木質バイオマスの発電施設は、エネルギー的に無駄だらけです。もっともっと小さな小型の電熱併用のコジェネに替えるべきです。また、建物は、新築に加えて既存の建物の断熱改修が大事になります。
どうですか。
電力を分散型の再生エネに転換するには、地域でのシフトが最も重要になります。そこに地域新電力の重要な役割があります。そして、交通では、EVの普及、熱では、圧倒的に断熱改修と小さい規模での再生エネ熱の利用が必要です。熱や交通を含めた脱炭素化の隠れた課題を解決できるのは、地域で小回りの利く地域新電力なのです。
以上